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【斬新な手法で新たな表現を開拓】貴重写真で記憶を辿る「鉄道写真の神様」広田尚敬氏の集大成

蒸気機関車C62を正面から捉えた代表作のひとつ。函館本線の目名〜上目名間。1965年2月(C)広田尚敬

蒸気機関車C62を正面から捉えた代表作のひとつ。函館本線の目名〜上目名間。1965年2月(C)広田尚敬

「鉄道写真の神様」と呼ばれる写真家がいる。この11月に卒寿を迎えた広田尚敬氏だ。日本で鉄道写真という分野が浸透していなかった1950年、14歳のときに初めて鉄道写真を撮り、20代半ばだった1960年にプロの写真家としてデビュー。当時の鉄道写真は記録性や資料性が重視され、フレームの中に型通りに車両を収める撮り方が常識だったが、広田氏はそれを打ち破る全く新しい表現を開拓していった。

「僕は日本の美しい自然の中を走る機関車や列車の姿、鉄道が持つ力強さ、あるいは鉄道を支えるために働く人々、乗る人々の営み──そうしたものを表現したかったのです」(広田氏、以下同)

 その業績は多岐にわたる。たとえば、キラキラと輝く海と海岸線を走る列車の組み合わせ。高速回転する動輪や機関車が吹き上げる煙のアップ。旅客列車を牽引する最後のSL(蒸気機関車)を動かした機関士が、持ち場に戻る客車の中で煙草をくゆらして涙する表情。

あるいは、ぼかして点描画のようになった紅葉の中に、疾走する蒸気機関車C62のつばめマークだけが浮かぶ一瞬……。車両が走り抜けるのに合わせてカメラを振ることで、車両が止まり、風景が流れているかのように撮る「流し撮り」という手法も編み出した。

 こうした斬新な写真は当初、鉄道ファンからは「鉄道だけ写せ」、写真家からは「鉄道が邪魔だ」と酷評されたという。だが、次第に評価が高まって「広田調」と呼ばれ、後進の鉄道写真家に多大な影響を与えた。

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