引退後は不動産業界に転職した小野剛氏
日本プロ野球では、毎年多くの選手が球団から離れるが、そうした元選手たちを積極的に採用しようとする一般企業がある。各社にはどういったニーズがあるのだろうか。ノンフィクションライターの柳川悠二氏がレポートする。(文中敬称略)【全3回の第2回。第1回から読む】
古巣の選手を顧客に
元プロ野球選手の採用を狙う一般企業のニーズは根強くある。
筆者がかつてトライアウトの現場を取材し、採用担当者の姿が多かったのが不動産業界だ。
転身したひとりに、2001年ドラフト7位で巨人に入団し、埼玉西武へと渡り歩いた元投手、小野剛がいる。2006年の引退後は不動産会社・東海住宅に就職し、2010年に独立を果たしている。
「不動産業界に転職した元プロ野球選手というと、私が初めてかもしれません。引退後、母校の武蔵大学の安達智彦教授(現名誉教授)に相談して、大学院で金融を学びながら、教授に勧められた会社に就職しました」
小野は就職後も、恥を忍んで古巣の練習に足を運び、名刺を差し出して回った。プロ野球選手を顧客とすることも恩師の提案だったという。
「プロ野球選手が暮らす賃貸マンションや戸建て物件、収益物件など、あらゆる不動産を扱っていました。一時期は古巣・西武のレギュラークラスほぼ全員の住宅を仲介していたほどです(笑)」
インタビュー中に小野の携帯電話が鳴った。某球団の一軍コーチに就任した大物OBの新居について対応していたようだ。
「社会経験が乏しいプロ野球選手には、時折、怪しい人間が近寄ってくる。そういう輩を僕らは“準野球人”と呼んでいますが、おいしそうな不動産投資話を持ち込まれ、騙されてしまうプロ野球選手って、実はたくさんいるんです。そういう準野球人からプロ野球選手の財産や不動産を守り、引退後の生活を守ることで、ひいてはセカンドキャリア支援にもなると思っています」
小野は不動産会社に加え、総合商社も立ち上げた。元プロ野球選手を積極的に採用し、自身が代表を務める中学硬式野球の狭山西武ボーイズでも指導させている。
