「以前は、タクシー運転手の喫煙率は高かったのですが、今や大手のほとんどが勤務中の乗務員の喫煙を認めていない。おかげで、車内からタバコくささが消えました。その代わり、ニオイがしないからいいだろうと、酒に酔ったお客さんが勝手に車内で加熱式タバコを吸われる例が増えています」(都内のタクシー会社幹部)
もちろん客は、タクシーが全面禁煙であることは承知しているだろう。それでも「におわないからいいだろう」という勝手な理屈をつけ、乗務員にばれないとでも思っているのか、加熱式タバコの喫煙を始める客が増加傾向にあるという。
「加熱式タバコも相当にニオいますから、乗務員はすぐわかる。それで注意しても、客は『においが付くわけじゃない』と言って悪びれない。タバコをまったく吸わない人間にとって加熱式タバコの残り香は、紙巻タバコ同様に不快です。なかには、加熱式タバコ特有のニオイに比べたら紙巻タバコのほうがまだマシ、という人だっています。におわないと言い張っているのは、マナーを守れない喫煙者だけです」(都内のタクシー会社幹部)
このような声が多数寄せられたのか、厚労省は「受動喫煙」に関する対策強化の方針を固めた。しかし、実質的には「加熱式タバコ」ユーザーへの締め付けであると、取材を続ける大手紙厚労省担当記者はいう。
「加熱式タバコユーザーによるマナー違反が多くなり、ついに国が動いたという格好です。加熱式タバコは紙巻タバコに比べてニオイが強くないという理由だけで、喫煙が認められていない公共の場所、電車内などでこっそり吸ってしまう人が後を絶たない。加熱式であっても、紙巻同等に他人に影響を及ぼしている、という実情の啓発です」(大手紙厚労省担当記者)
2020年4月に全面施行された改正健康増進法によって、タバコは飲食店やホテルなどの屋内で原則、吸えなくなった。紙巻タバコの場合は、飲食ができない専用室でしか喫煙が認められない一方で、加熱式タバコについては経過観察として紙巻よりもゆるやかな対応となっている。その措置を勝手に「加熱式は健康被害がない」「加熱式はにおわない」と結論づけ、加熱式タバコ喫煙者は好きなときに好きなところで喫煙できると曲解して振る舞うユーザーが一部に出現しているのが現状だ。
紙巻タバコユーザーの筆者だが、ニオイが付くのが嫌で、自家用車の中では禁煙を貫いている。が、ある日、加熱式タバコユーザーの知人を車に乗せたところ、黙って加熱式タバコを吸い始め、驚いたことがある。「紙じゃないからいいだろう」と知人は笑うが、紙巻タバコユーザーも、加熱式タバコのニオイには実はかなり敏感になっている。
結局のところは、他人への「思いやり」や「配慮」の話なのだが、SNSなどでは紙巻タバコはダメ、加熱式はよいなどと、明後日の方向を向いたままの人々による、空虚な議論ばかりが続いている。今後の喫煙者の言動によって、タバコという嗜好品が社会的にどのような位置づけになるかかかっていると考えて、もっと建設的な意見で盛りあがりたいものだ。