夫によるサイバーストーキング行為に支配されていた生活を送っていたミカ・ミラーさん(遺族による追悼サイトより)
アメリカ南部サウスカロライナ州マートルビーチ。人口約3万5000人。大西洋に面した観光とリタイア世代が混ざり合う、穏やかなビーチタウンだ。その静かな町で起きていたのは、牧師という仮面の裏に隠された、執拗で陰湿な支配だった。
町の独立系プロテスタント教会を率いていた牧師、ジョン・ポール・ミラー被告(46)。彼が妻のミカ・ミラーさん(30)に加えていたとされるサイバーストーキング行為が、刑事事件として立件された。
ミカさんは2024年4月、自宅近くの州立公園で拳銃により自ら命を絶った。捜査の過程で浮かび上がったのは、「逃げ場のない監視生活」だった。
離婚を切り出した瞬間から始まった“地獄”
事件の発端は、ミカさんが離婚手続きを始めた2022年頃にさかのぼる。それを境に、夫の行動は一変したとされる。起訴状や米メディアの報道が明らかにしている行為は、常軌を逸している。
すでに判明しているだけで、〈妻の私的なヌード写真を無断でネットにバラ巻き〉〈GPSを使って居場所を常時追跡〉〈車での尾行と張り込み〉といった行為がわかっており、いずれも単発ではなく、日常的に、執拗に、組み合わされて行われていた可能性が指摘されている。
地元紙の社会部記者はこう語る。
「牧師という立場の男が、若い妻のヌード写真を大量に撮影し、それを“武器”にしていた。信仰以前に、人として壊れていると感じました」
ジョン・ポール・ミラー被告は、自ら立ち上げた独立系プロテスタント教会「ソリッド・ロック教会」の創設者であり主任牧師だった。
税務上は非営利の宗教団体だが、元関係者の間では「オカルト色が強い」「閉鎖的だった」という声も少なくない。
ミカさんはもともとこの教会の信者だった。結婚後も教会活動に深く関わり、表向きは「信仰に支えられた夫婦」に見えていた。
だが家庭内では、監視と支配が日常だったという。近隣住民は「外では穏やかそうだった。でも、家の中のことは誰も知らなかった」と語る。教会関係者の証言は、さらに重い。
「ミカさんは明らかに怯えていた。夫から逃げられない、と感じていたようだ」
宗教指導者と信者、夫と妻。二重の上下関係が重なり、ミカさんは孤立を深めていったとみられる。
