ワクチンを打ちたくない人の意思をある程度犠牲にしてでも、危機管理のために接種は進めるのだという“全体主義的な施策”であることを正面から語りかけ、副反応のリスクもあることを丁寧に説明して議論を重ねていれば、後の反対派の膨張を抑制できたのではないか。
荒唐無稽な陰謀論に傾く人々を「ナンセンスだ」「デマだ」と強く批判すると逆効果になる恐れが強い。自分の大切な価値観を否定されると、人はむしろその考えに凝り固まってしまう。
老親が荒唐無稽な陰謀論やビジネスエセ陰謀論の動画にハマっていたら、頭ごなしに否定するのではなく“それも面白いけど、こっちも面白いよ”と、名作ドラマや映画の動画を勧めるほうが効果的と考えられるのである。
日本の有識者で陰謀論を肯定するのは私くらいかもしれない。しかし、そうして丁寧に腑分けをしていくことが、陰謀論の洪水のなかに潜む真実を見逃さないことにつながるはずだ。
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【プロフィール】
佐藤優(さとう・まさる)/1960年、東京都生まれ。作家、元外務省主任分析官。同志社大学大学院神学研究科修了後、外務省入省。『自壊する帝国』で大宅壮一ノンフィクション賞、新潮ドキュメント賞受賞。『国家の罠』『獄中記』など著書多数。近著に片山杜秀氏との対談本『生き延びるための昭和100年史』がある。
※週刊ポスト2025年12月26日号