コロナワクチンに関しても陰謀論が散見された(時事通信フォト)
“政府を裏で操る秘密の組織が存在する”“国家がワクチンによって遺伝子を操作しようとしている”――ネットを中心に流布されるそうした言説は「陰謀論」の一言で片付けられることも多い。しかし、その狭間に“真実”が埋もれていることを見逃してはならない――そう喝破するのは、インテリジェンスの専門家である作家・元外務省主任分析官の佐藤優氏だ。【第3回】
ワクチン推進派は何を誤ったのか
しばしば因果関係が誤解されているが、陰謀論が世界を混乱させているわけではない。世界が混乱しているから陰謀論が蔓延るのだ。トランプが世界に混乱をもたらしているのではなく、米国に広がる混乱の結果がトランプの登場なのである。
シンプルだが荒唐無稽な陰謀論を説明する才能がある政治家は、次々とそれをプロパガンダとして発信し、人々を組織化できる。反ワクチンの主張で参政党を伸長させた神谷宗幣代表は、その意味で実に能力の高い政治家だと筆者は考えている。
同党はコロナ禍の2020年4月に結党し、コロナワクチンの接種勧奨の是正を掲げて党勢を拡大した。添加物や化学物質の忌避を含め、身体性と結びついた思考をイデオロギー化した政党とも言える。
そもそも外部の物質を体内に入れるワクチンは、荒唐無稽な陰謀論を誘発しやすい。18世紀末に発明された種痘(天然痘の予防接種)への人々の不安は、陰謀論の起源と言ってもいいかもしれない。
とりわけ免疫学や遺伝子工学を駆使する最新のワクチンはその知見が非常に複雑だから、体内に受け入れるか否かは、「信じるか否か」という信仰のレベルで判断せざるを得ない人が多い。
ここで「信じない」と決めると、他の荒唐無稽な陰謀論もその結論と親和的なものとなる。身体に異物が入ることを忌避するイメージを国家まで拡張すると、移民への嫌悪や排外主義に接近していく。
また、反ワクチンの陰謀論が拡大したのは、推進派の政府や専門家にも問題はあったと筆者は考える。接種の判断は本来、国民一人ひとりの自由意思に基づくべきだが、免疫の壁をつくる社会全体のメリットを重視して接種勧奨が早足で進められた。これがワクチン懐疑派の反発を勢いづけた。
