『機動戦士ガンダム サンダーボルト』27集が発売(c)太田垣康男/小学館(c)創通・サンライズ
「ザクにしてガンダム、ジオングなのに連邦軍という、奇妙な2つの機体。それは陰にして陽、陽にして陰であるふたりの運命そのものである」──アニメ評論家の藤津亮太が、『機動戦士ガンダム サンダーボルト』の魅力についてそう語る。
連載開始時から高い人気を誇り、アニメ化、ガンプラ化も果たし、最終話も大きな反響を呼んだ“大人のガンダム”。シリーズ累計600万部を突破する大ヒット作が、13年におよぶ長期連載を終えて、ついに完結となる27集が発売され、大きな話題となっている。
漫画家・太田垣康男が魂を込めて描き切ったガンダム史に残る傑作は、一体、何がスゴいのか。
* * *
因縁のライバルが、変わりゆく時代の中で何度も戦いを繰り返す物語と思われた『機動戦士ガンダム サンダーボルト』。だが中盤にクローディア・ペールが死ぬことで、物語は大きくうねる。そのうねりがもたらす変化は、太極図を思わせるものだった。
太極図とは、陰を表す黒と、陽を表す白が互いに絡み合ったマーク。陽が極まると陰に変じ、陰が極まると陽へと変ずる様子が表されている。
物語序盤の構図はシンプルだ。サンダーボルト宙域を舞台に、連邦軍のイオとジオン軍のダリルが戦いを繰り広げる。イオは、サイド4ムーアの再興が悲願のムーア同胞団の一員。ダリルは、義手や義足などの傷痍軍人で構成され、リユース・P・デバイスの研究拠点でもあるリビング・デッド師団のエース。このときの戦いの構図は、とてもシンプルでクリアだ。しかし、混迷の戦後がやってくる。ここに南洋同盟という第三勢力が登場する。
クローディアはイオの幼馴染で、連邦軍ムーア同胞団の空母ビーハイブ艦長代理。彼女はビーハイブ撃沈の際に行方不明となるも、南洋同盟に救助されていたことが後にわかる。レヴァン・フウ僧正の懐刀となった彼女は、国境守備隊隊長として同盟の防衛の中核を担うようになっている。南洋同盟の本拠、タール火山基地が戦場となったとき、クローディアはザクタンクでダリルを援護する。そこで彼女はアトラスガンダムのイオと改めて相まみえることとなる。そしてクローディアはイオの手で絶命する。これが陰陽変転のトリガーとなる。
クローディアは、イオにとってはかけがえのない幼馴染だった。だから南洋同盟から取り返さなくてはならなかった存在だ。一方、ダリルにとっても彼女は、幼児退行してしまったカーラを連れ、南洋同盟に合流するきっかけを作った存在だった。太極図には、陰中の陽あるいは陽中の陰を表す点がある。これは変転の予感であり、ふたりにとってクローディアはそのような存在であった。
強化人間リリー・シリェーナが感知したとおり、ダリルはこれをきっかけにニュータイプとして目覚める。陽であったダリルが陰へと変じたのだ。これまで以上に迷いがなくなったダリルは、レヴァン・フウの考案した、アナハイム・エレクトロニクスを殲滅するマイトレーヤ作戦の実行にすべてを懸けるようになる。理想主義者は、ときにエゴイストである。自らを鋭いナイフのように尖らせたダリルは、自らのエゴに縛られていく。
イオは、クローディアを殺したことで放心状態になる。そしてそのイオを殺しにやってきたのが、やはり南洋同盟に帰依していた友人のコーネリアス・カカだった。コーネリアスも、サイド4ムーアの出身。強化人間イース・シリェーナの身を挺した共感により、すんでのところで命を救われたイオは、自らの手でコーネリアスも射殺する。しかし、この悲しみと引き換えに、イオはサイド4の記憶から解放される。そして双子の姉イースを失ったリリーと兄妹の関係となる。このときイオは生まれ変わり、陰から陽へと転じる。
