藤津氏が何度も読み返したという第221話のピエタを思わせるカーラとダリルのシーン(c)太田垣康男/小学館(c)創通・サンライズ
登場人物だけでなく宇宙世紀も大胆にうねる面白さ
失うことで自由になったイオ。失いながらどんどん縛られていくダリル。この陰陽の転換を象徴するのがモビルスーツだ。ダリルが搭乗するのはサイコ・ザクMk-IIの装甲をガンダムに差し替えたパーフェクト・ガンダム。そしてイオが乗るのは連邦軍のマークを入れたパーフェクト・ジオング。ザクにしてガンダム、ジオングなのに連邦軍という、奇妙な2つの機体。それは陰にして陽、陽にして陰であるふたりの運命そのものである。
このあとふたりがどのような運命を生きたかは、ぜひ本作を読んでご自身の目で確かめてほしい。物語の鍵を握るカーラもまた、陰から陽へ、陽から陰へと、極点を越えてそのあり方を変じていくキャラクターであった。
興味深いのは、登場人物の個人的な変転だけでなく、最終的に『サンダーボルト』が描く未来歴史そのものが太極図のようなうねりを見せることだ。
戦後の地球圏は、アナハイム・エレクトロニクスが独立宣言をした独立国家タイタンズと、地球連邦宇宙軍が作った新組織EUREKAによる内戦状態となる。タイタンズの名前はテレビシリーズ『機動戦士Zガンダム』の連邦軍特殊部隊ティターンズに似ながら、内実はそれに対抗したエゥーゴに近い。一方で、EUREKAはその成立経緯からしてティターンズに近い組織だが、そのマークはエゥーゴと同じものである。ここでは『Zガンダム』の2組織────というより宇宙世紀の歴史そのものが、陽が陰に、陰が陽に転じるように大胆に転換されているのである。
この原稿のために第221話(単行本26集収録)を何度も読み返した。虚空を流れていくダリル。その前に現れる無数の死者たち。死者の中にクローディアの姿を認め、さらにサイコ・ザクを幻視するダリル。そして彼は彼の意思で、彼と彼を縛っていたものから自由になる。その彼を、幻影のカーラが、聖母が受難の果てに死んだ男を抱きかかえるピエタのような構図で抱きとめる。この虚空は“太極のうねり=メビウスの輪”から抜け出た涅槃なのであろう。
【プロフィール】
藤津亮太(ふじつ・りょうた)/1968年、静岡県生まれ。アニメーション評論家。1999年、『ガンダム』のムック執筆でデビュー。2000年から本格的にアニメについての原稿を書き始める。主な著書に『アニメと戦争』(日本評論社)、『富野由悠季論』(筑摩書房)などがある。
