『機動戦士ガンダム サンダーボルト』27集が発売(c)太田垣康男/小学館(c)創通・サンライズ
連載開始時から高い人気を誇り、アニメ化、ガンプラ化も果たし、最終話も大きな反響を呼んだ『機動戦士ガンダム サンダーボルト』。シリーズ累計600万部を突破する大ヒット作が、13年におよぶ長期連載を終えて、完結となる27集が発売され、大きな話題を生んでいる。
「UC(宇宙世紀)年表に縛られない作家性を発動し、挑戦状のような苛烈な内容となった」
アニメ・特撮研究家の氷川竜介はそう語る。漫画家・太田垣康男が魂を込めて描き切ったガンダム史に残る傑作の凄みとは──。
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『機動戦士ガンダム』(原作・総監督/富野由悠季)とその派生作品には、史上屈指の特異性が備わっている。1979年のテレビアニメが全43話で完結したにも関わらず、「物語世界は、むしろそこから始まる」となったことだ。1981年からの劇場版三部作公開を経て、プラモデルメーカー、出版社、ユーザーが協調し、「作品の外にあったはずの戦い」を自由に発想し、ガンダム世界を拡張していったのだ。
数々の続編や外伝が生まれた結果の集積が「UC(宇宙世紀)年表」にまとめられたことで「世界を拡張する運動」は定着し、新たなアニメの楽しみ方が支持を得る。『機動戦士ガンダム サンダーボルト』も拡張運動のひとつに位置づけられるものの、太田垣康男は年表に縛られない作家性を発動し、二次創作的な枠組みに収まらない、挑戦状のような苛烈な内容となった。
そのどこが型破りかと言えば、「戦争ならば人は傷つき死ぬし、そこには必ず心の痛みも生じる」という点だ。そこには作家としての誠実なリアリズムが投影されている。流血、身体欠損、大量死などは、公共性の観点で抑制され、プラモデルによる「戦争ごっこ」のブレーキになりかねないために避けられてきた。しかし戦場のリアルから目をそらさず、惨事が派生させる怨念の連鎖を正面から見据え、救済となるはずの宗教の暴走を描くなど、タブー的な要素を徹底的に全開したのである。
その姿勢は露悪的ではない。「安全弁の外れたガンダム世界」を通じ、読者とともに心の深淵を覗いてみたいという苛烈な意志が、13年にわたる長期連載の軸として貫かれているからだ。それは戦争のもたらす絶望の中、時折キラリと光る希望を見つける目的のため……という点で、原典である『機動戦士ガンダム』(ファーストガンダム)の志もまた、確実に受け継がれている。
長い連載中、世界的なパンデミックや各地の戦争、武力衝突も現実世界に発生してしまった。結果として『サンダーボルト』に描かれている「絶望と希望の表裏一体感」は、より身近なものになったのではないだろうか。
