ファーストガンダム伝説の名場面である「ラストシューティング」が作中に登場するのは第208話(単行本25集収録)(c)太田垣康男/小学館(c)創通・サンライズ
全巻一気読みでかけがえのない体験を得る
今回、寄稿のために全巻を一気に読み返したところ、一途な疾走感が筆者にとってかけがえのない体験となった。途中で作者自身も傷つき、その痛みが絵柄に反映してしまう点を含め、「手から手へと届けたい」という属人的な生々しさを感じたのだ。この生理的な感覚は、記号的表現による集団作業のアニメでは生まれにくい。だからこそ逆に、原典では富野由悠季総監督がアニメーションディレクターの安彦良和とともに、生々しさに満ちた表現を追求した。それは40数年前に成熟を始めたアニメ観客に向けての挑戦状でもあった。結果、筆者は作中「ニュータイプ」として描かれる存在とは、アニメ表現を通じた生々しさの交感可能な者たちの「たとえ話」であると考えた。
作家個人の感性がダイレクトに接続される漫画メディアの特性を最大限に活かし、リアリズム追求をフルに発揮した『サンダーボルト』は、原典にあった挑戦の“再発見”をもたらすものでもあった。避けられていた痛みの側面の拡張を果たすと同時に、モビルスーツ、モビルアーマーのセレクションやシビアな戦闘描写により、ガンダム世界に深く埋没したファンたちをも満足させたいという、貪欲でアクロバティックな成果をもたらしたと言える。
ガンダム世界の拡張に関しては、同時多発現象が発生した。それにも触れておこう。テレビシリーズ『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』(15)では、成長期の少年パイロットが脊髄に大手術を受けてモビルスーツを直接コントロールする、サイコ・ザクと似たシステムが登場する。配信CGアニメ『機動戦士ガンダム 復讐のレクイエム』(24)は欧州戦線を描く外伝的構成に加え、ジオン公国側に重きをおいたモビルスーツ戦闘では、ビーム兵器で金属が溶融切断されるなど、『サンダーボルト』に近接した描写も見受けられる。
さらに最新作『機動戦士Gundam GQuuuuuuX』(25)では、『サンダーボルト』が先鞭をつけた「一年戦争のパラレルワールド」の手法を使い、「エヴァンゲリオンシリーズ」のスタジオカラーとのコラボレーションにより、新たな拡張が実現し、大きな支持を受けた。シャア・アズナブルがガンダムを奪取した結果、ジオン公国側が勝利した世界線が分岐する。その帰結として、モビルアーマーのブラウ・ブロ(キケロガ)が登場、ビグ・ザムが量産されるなど、『サンダーボルト』と重複する展開も登場した。
影響関係の有無は不明ながら、『サンダーボルト』の示した「年表の閉塞突破」の方向性は、今後のガンダム世界を豊かにするものであることは間違いない。これらを念頭に置いて完結巻が出る『サンダーボルト』を一気読みしてみるのもまた、「ガンダムの新しい楽しみ方」になるはずだ。
【プロフィール】
氷川竜介(ひかわ・りゅうすけ)/1958年、兵庫県生まれ。アニメ・特撮評論家。明治大学大学院特任教授(国際日本学研究科)。主な編著書に『安彦良和アニメーション原画集「機動戦士ガンダム」』『日本アニメの革新』『空想映像文化論』(KADOKAWA)など。
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