『集団浅慮 「優秀だった男たち」はなぜ道を誤るのか?』(古賀史健・著)
高市発言に端を発する日中の関係悪化、深刻化する少子高齢化、課題山積の移民・難民問題、そして急激に普及する生成AIやSNS上でのフェイクニュース・誹謗中傷問題などなど、多くの問題と直面した2025年。新年を迎えた私たちは、いかに対処すべきか。そのヒントとなる1冊を、本誌書評委員が推挙してくれた。
音楽プロデューサー・作家の松尾潔氏が選んだ「2026年の潮流を知るための“この1冊”」は『集団浅慮 「優秀だった男たち」はなぜ道を誤るのか?』(古賀史健・著/ダイヤモンド社/1738円)だ。
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古賀史健といえば、哲学者・岸見一郎との共著『嫌われる勇気』で知られる。アドラー心理学の本質を流れるように説いた同書は2013年刊行、国内外で累計1350万部という途轍もないセールスを記録。2017年にはフジテレビでドラマ化もされた。
そんな著者が、昨年社会に激震を与えた「フジテレビ事件」に対峙し、「第三者委員会調査報告書」を丹念に読み解きながら、日本社会に巣くう「病」の正体に迫ったのが本書である。
ぼくはフジのドラマや映画の楽曲をたびたび手がけ、他局とはいえ中居正広がMCの番組にも出演してきた。だからこそ、あのニュースが駆け巡ったときは、まるで床が抜けるような感覚だった。事実を受け入れるまでにしばらく時間がかかった。
本書の核心は書名にもある「集団浅慮(Groupthink)」。異論が排除され、空気が支配する場で、個々の判断力は蒸発していく。この心理現象の背景には、過剰な「凝集性」──仲の良さ、一体感、信頼がある。そこに「同質性の高い壮年男性」という要素が加わることで危うさは増す。似た者同士の閉じた世界は外の声を忌避し、内側の常識だけで物事を回そうとする。
それは組織に限らない。例えば事件後、「女がノコノコ男の部屋に行くからだ」とSNSに書いたフリーライターが何人もいた。彼らもまた空気に流され、被害者を断罪することで「正義の側」に立ったつもりだったのかもしれない。
著者は言う。これは人権の問題であり、日本人に足りないのは人権の「意識」ではなく「知識」だと。「優秀だった男たち」はなぜあんなにも脆く崩れたのか?──その問いは、2026年を生きるぼくたちにも向けられている。生活様式を更新することなくダンマリを続けるのか、無知を恥じて学び直すのか。そんな岐路に立つすべての人にとって、鏡のような一冊である。
※週刊ポスト2026年1月2・9日号
