国内

原発20km圏内に留まる男性「俺はもう町から見放されたんだ」

 4月22日、政府は福島第一原発から半径20km圏内を 「避難指示区域」から法的に立ち入りを制限できる「警戒区域」に切り替えた。今後、主要道路の20km地点には警察による検問所が設置され、関係者以外の立ち入りが禁止される。

 村のほぼ全体が20km圏内に含まれ、原発事故後すぐ避難指示が出された福島県双葉郡楢葉町では、すでにほとんどの住民が避難している。しかし、この町にはまだ6世帯8人が住んでいた(4月22日現在)。

 そのなかのひとり、窓にビニールをかけた農家に住む男性・Aさん(73才)。東京生まれのAさんは5才で父親を亡くし、母親の故郷である楢葉町で育った。日本中の工事現場で働き、仕事と仕事の合間は楢葉町で過ごした。年齢を重ねて肉体労働ができなくなり、楢葉町に腰を据えた。

 3月11日の地震の翌日、この町に「原発が事故です。各自、車で避難してください」という緊急避難放送が鳴り響いた。Aさんは思わず防災無線にしがみついた。緊急時には、避難方法などが放送されるはずだった。

「すぐに車のない人や動けない人のための指示が出ると思ったんです。でも、『急いで避難してください』と2回アナウンスがあってプツリと切れた」(Aさん)

 Aさんは身の回りの物をボストンバッグに詰め、「無線が何かいうべ」と待ち続けた。しかし無線は無言のままで、家を訪れる者もいない。Aさんは強烈な疎外感を味わった。

「『おれはもう町から見放されたんだ』と思って。覚悟を決めて内窓に放射能除けのビニールさ張って、家に残っていた食料で過ごしてたんだ。電気はすぐ戻ったからテレビは見たけど、電話はずっとつながらなかった。食料がなくなってきたら種芋に手を出して我慢したけど、10日を超えて、このままじゃ餓死するんじゃないかと思ったね」(Aさん)

 3月23日にようやく自衛隊員らが訪れて避難を強く勧めたが、「おれはいかね」と突っぱねた。8日後に再び説得されたが、思いは変わらなかった。

「おれは自分の惨めさがわかってる。すごい放射能を浴びてんだから、避難所に行っても、放射能が嫌で逃げた人から何をいわれるかわからない。つらい思いをするより、家さいて死んだほうがいいっぺ」(Aさん)

 自衛隊に渡された支援物資の水4kg、米、カップラーメンなどで食いつなぐ。いざとなったら食べようと決めていた畑の大根は、避難した村民が解放した牛にすべて掘りかえされてしまった。

「おれは意地でも逃げねってば。立ち入り禁止も関係ねえ」(Aさん)

 自衛隊や、定期的に訪問を重ねている楢葉町議会関係者の説得を拒否し続けているAさん。事故発生時の「見放されてた」という記憶に加え、よるべない身の上が決意の背景にあるのかもしれない。

※女性セブン2011年5月12日・19日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

国民に笑いを届け続けた稀代のコント師・志村けんさん(共同通信)
《恋人との密会や空き巣被害も》「売物件」となった志村けんさんの3億円豪邸…高級時計や指輪、トロフィーは無造作に置かれていたのに「金庫にあった大切なモノ」
NEWSポストセブン
国民に「リトル・マリウス」と呼ばれ親しまれてきたマリウス・ボルグ・ホイビー氏(NTB/共同通信イメージズ)
ノルウェー王室の人気者「リトル・マリウス」がレイプ4件を含む32件の罪で衝撃の起訴「壁に刺さったナイフ」「複数の女性の性的画像」
NEWSポストセブン
愛子さまが佳子さまから学ぶ“ファッション哲学”とは(時事通信フォト)
《淡いピンクがイメージカラー》「オシャレになった」「洗練されていく」と評判の愛子さま、佳子さまから学ぶ“ファッション哲学”
NEWSポストセブン
年下の新恋人ができたという女優の遠野なぎこ
《部屋のカーテンはそのまま》女優・遠野なぎこさん急死から2カ月、生前愛用していた携帯電話に連絡すると…「ポストに届き続ける郵便物」自宅マンションの現在
NEWSポストセブン
背中にびっしりとタトゥーが施された犬が中国で物議に(FB,REDより)
《犬の背中にびっしりと龍のタトゥー》中国で“タトゥー犬”が大炎上、飼い主は「麻酔なしで彫った」「こいつは痛みを感じないんだよ」と豪語
NEWSポストセブン
(インスタグラムより)
《“1日で100人と寝る”チャレンジで物議》イギリス人インフルエンサー女性(24)の両親が現地メディアで涙の激白「育て方を間違ったんじゃないか」
NEWSポストセブン
藤澤五月さん(時事通信フォト)
《五輪出場消滅したロコ・ソラーレの今後》藤澤五月は「次のことをゆっくり考える」ライフステージが変化…メンバーに突きつけられた4年後への高いハードル
NEWSポストセブン
石橋貴明、現在の様子
《白髪姿の石橋貴明》「元気で、笑っていてくれさえすれば…」沈黙する元妻・鈴木保奈美がSNSに記していた“家族への本心”と“背負う繋がり”
NEWSポストセブン
イギリス出身のインフルエンサーであるボニー・ブルー(本人のインスタグラムより)
「タダで行為できます」騒動の金髪美女インフルエンサー(26)が“イギリス9都市をめぐる過激バスツアー”開催「どの都市が私を一番満たしてくれる?」
NEWSポストセブン
ドバイのアパートにて違法薬物所持の疑いで逮捕されたイギリス出身のミア・オブライエン容疑者(23)(寄付サイト『GoFundMe』より)
「性器に電気を流された」「監房に7人、レイプは日常茶飯事」ドバイ“地獄の刑務所”に収監されたイギリス人女性容疑者(23)の過酷な環境《アラビア語の裁判で終身刑》
NEWSポストセブン
Aさんの乳首や指を切断したなどとして逮捕、起訴された
「痛がるのを見るのが好き」恋人の指を切断した被告女性(23)の猟奇的素顔…検察が明かしたスマホ禁止、通帳没収の“心理的支配”
NEWSポストセブン
指定暴力団六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)
【七代目山口組へのカウントダウン】司忍組長、竹内照明若頭が夏休み返上…頻発する「臨時人事異動」 関係者が気を揉む「弘道会独占体制」への懸念
NEWSポストセブン