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アベノミクス 非正規社員の賃上げ実現が景気回復の鍵と識者

 安倍首相が法人税減税や設備投資補助などアメをぶら下げながら、デフレ脱却に向けて経済界に強く要請している賃上げ。それにローソンなど一部企業が応えてはいるが、「労働者の約4割を占める非正規社員の待遇改善が果たされなければ、アベノミクスは絵に描いた餅に終わる」と指摘するのは、人事ジャーナリストの溝上憲文氏だ。

 * * *
 アベノミクスはまだ期待先行で、2%の物価上昇目標もどうなるか分からない中、企業としては業績が目に見えて好転しない限りは賃上げできないというのが本音です。

 たとえ業績が上がっても、定期昇給ではなくボーナスなど変動する賞与の上積みで済ませたいと思っているはず。月給は固定費なので、一度上げたら再び下げるのは難しいし、社会保険料の負担も増すために、できれば避けたいのが経済界の総意です。

 ローソンも20歳代後半~40歳代の子育て世代の年収3%アップを発表したものの、なぜか月給ではなくて賞与で支給するあたり、少し違和感があります。

 なによりも、正社員の賞与アップの陰で割を食うのは、ボーナスの出ない非正規労働者やパートタイマーたちです。もともと低賃金なうえに、物価だけが上がって賃金が上昇しなければ、生活水準は一層苦しくなり、財布の紐はますます固くなる。こんなことで真の景気回復ができるのか疑問です。

 1997年以降、賃金は現金総額で15%(月約5万円)下がっていますが、これも非正規化が進んだからに他なりません。長引くデフレの根源は、低所得の非正規雇用者が増えたために、消費が活性化しなかったからです。

 でも、よく考えてみると、年収1000万円を超える正社員よりも、貯金のない年収200万円の非正規社員のほうが収入に占める消費の割合が大きい。

 逆にいえば、正社員の給料を減らしてでも非正規社員の賃上げをすれば、消費は活性化するのです。

 人件費増加分の原資は大企業が溜めこんでいる267兆円の内部留保を還元すればいいだけ。こういう指摘をすると、「内部留保は貯金ではなく、次代の設備投資に向けるためだ」と反発する経営者が必ずいます。でも、人材育成や積極的な人材登用だって立派な先行投資ですよね。長い目で見れば企業の収益拡大に寄与します。

 いま、非正規社員の賃金に関する最大の矛盾点は、正社員とまったく同じ仕事をしているのに賃金格差が激しいこと。そのうえ、正社員だけにボーナスを出して非正規には出さないという理屈は通りません。

 かつて、NTTが60歳を超えて非正規扱いになった社員たちの給料をいきなり半額にするのはどうかと、40代、50代の現役世代の給与を1割削減してそちらに分配したことがありました。まさにこうした賃金改革のカンフル剤こそ組織の労働力を上げる一助になるはずです。

 企業はまず、内部留保を効果的に切り崩しながら、社内における正規と非正規の賃金格差を縮めていく。そして、非正規社員も会社の貢献度に応じて賃金モデルを細かく分けることで、単にクビを切りやすくするための雇用形態ではなく、企業にとってなくてはならない即戦力を数多く育成し、全体のスキルアップを図る。

 イトーヨーカ堂など非正規社員やパートの多い大手スーパーなどは、すでに一定の成果主義を設けて、頑張った非正規社員は正社員よりも多く賃金をもらえるシステムになっています。これは他業種も見習うべきです。

 経団連はいまだに非正規労働者は「自ら望んで非正規になっている」との論調で、各企業が押し進めてきた賃金抑制による短期的な利益追求の経営方針には目をつぶっています。

 しかし、非正規労働者を含めた賃金の底上げをしなければ、デフレ脱却も叶わないということを、改めて認識すべき時期ではないでしょうか。

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