普段、ファンがその姿を球場で見かけることはほとんどない。しかし選手たちにとって、そしてチームにとって、最もなくてはならない“裏方”である。用具係──言葉から想像できる仕事だけでなく、実に多岐にわたる業務に従事する彼らの中には、かつて球場を沸かせた選手も含まれている。
入来祐作氏(40)。1996年のドラフト1位で巨人に入団、闘志あふれる投球スタイルで東京ドームを沸かせた男はいま、横浜の一軍用具担当を務めている。現役時代の入来氏は、一時、兄・智氏とともに兄弟投手として巨人のローテーションの一角を担うなど活躍。その後、メジャー挑戦などを経て2008年に引退した。華やかな世界からの転身に、抵抗はなかったのか。
「ありましたよ。でも選手でなくなった時、野球界から離れた仕事が想像できなかった。だから最初はバッピ(打撃投手)をやらせていただきました。ただ、これが本当に難しかった。それまで打たせまいと自分のペースで投げていたのに、今度は打たせるように投げなければならない。最後はマウンドに立つのがイヤで仕方なかった。それでもうダメかなと思っていた時に、用具係の仕事はどうかと声をかけてもらえたんです」
この仕事は「自分のペースでできるのでありがたい」と、入来氏は笑う。
「選手が最高のプレーができる環境を整えるのが僕の仕事。おまけにチームのものも預かっているから、大きな責任も感じています」
かつて、V9を達成した巨人・川上哲治監督が、最も重要視していたものが3つある。それはヘッドコーチ、監督付マネージャー、そして用具係だった。この3人に関しては、「誰が何といおうと、絶対に川上さんが自分で決めていた」(巨人OB)といわれる。
世の中に数あるスポーツの中でも、野球は特に用具を多く使う競技だ。プロチームでその全てを任され、練習から試合まで影響力を持つのだから、大切にされるのも当然である。
※週刊ポスト2013年5月31日号