ライフ

16人に1人発症のうつ「焦らず治療続けて社会復帰を」と識者

「焦らず適切な治療を続け、社会復帰を」と語る上島教授

「新型うつ」といったキーワードが出てくるなど、うつ病は社会問題のひとつとなっている。日本うつ病学会では「適切な診断が必要」としながらも、話題となっている通称「新型うつ病」に対しては「医学的知見の明確な裏打ちはない」という見解を示した。

 厚生労働省の調査によると、平成23年のうつ病などの「気分障害」患者数は、95.8万人に。また国民の約16人に1人は、生涯に一度はうつ病を発症する可能性があり、さらに、この1年のうちに50人に1人がうつ病にかかったという研究報告書もある。厚生労働省では、うつ病を極めて重要な健康問題として捉え、うつ病治療の研究や患者への社会的支援を積極的に進めている。

 それでは、そもそもうつ病とはどんな病気か、自分や身近な人にうつ病の可能性があったらどうするべきか。国際医療福祉大学・医療福祉学部の上島国利教授に聞いた。

 まずうつ病には、「気分が落ち込む」「意欲がわかない」など、“心”に表れる症状と、「疲れやすい」「眠れない」など、“身体”に表れる症状があるという。
「落ち込んだり、憂鬱な気分に陥ったりすることは誰にでもあります。ですが、うつ病の場合、落ち込んだ原因が解決しても、気分が回復しません。そのため、仕事や社会生活に支障をきたしてしまいます」(上島教授)

 うつ病になりやすいのは、よくいわれるように真面目で几帳面、完璧主義な人。
「そういう人が病気やケガをしたり、失業や子供の独立など、失うことのむなしさを感じたり、身近な人との別離や失恋を経験したりすると、うつ病を生じることが多いと言われます。また、結婚や出産、昇進など、嬉しいはずのライフイベントであっても、環境の変化がプレッシャーとなり、うつ病になることもあります」(上島教授)

■うつ病に対する治療法

 現在のうつ病治療は、「休養・環境調整」のほか、抗うつ薬などによる「薬物療法」、カウンセリングなどの「精神療法」の3つが中心となっている。なかでも、うつ病治療の基本となるのが、薬物療法だ。

「薬物療法では、最短で6か月ほどは抗うつ薬を服用するのが平均的なスケジュールです。ところが、今までの薬では、効果が出るのに2~4週間かかるものが多かったことから、処方された薬に対して『効果が出ない』と不満をもつ患者さんも多かったのです。また、抗うつ薬を使っても、3人に1人は症状を改善できないというのも実情です」(上島教授)

 このような現状を打破すべく、今年6月には、抗精神薬「アリピプラゾール」がうつ病治療薬として認可された。

「アリピプラゾールは、これまでのうつ病治療薬に上乗せして使用する薬です。アメリカではすでに2007年からうつ病治療の補助療法に使われていて、3つの大規模な臨床試験で『明らかな効果があった』ことが認められています。日本での臨床試験でも、使用して1週間目というごく早い時期から効果が出ていること、また副作用が少ないことから、うつ病治療薬で十分に反応が得られなかったうつ病治療の新たな選択肢として、大いに期待できます」(上島教授)

 こういった新しい薬や症状に関する情報が増える一方で、自分自身や身近な人が“うつ病なのでは?”と心配になるケースも。もしもうつ病だとしたら、早期に診断を受けて、適切な治療を開始することが大切だが、「症状や心構えなど、わかりやすい資料があれば」と思う人も多いだろう。

 そうした人に参考になるのは、治療に使用される薬の種類や効果、副作用、服薬の注意点などをはじめとしたうつ病の基本的な情報だ。こころの健康情報局「すまいるナビゲーター」サイト内では、うつ病早わかりガイド『うつ病ABC 』を掲載。親しみやすいイラストで、ポイントがわかりやすい冊子の情報はPDF等でダウンロードできるほか、資料請求フォームから無料での郵送依頼も可能だ。

■目指すのは「社会復帰」

 抗うつ薬を服用した人を対象にしたウェブ調査(2008年、回答数1187件。回答はひとつのみ)によると、患者が望むことはまず、「症状を軽くすること」(45.8%)、「眠れるなど、睡眠障害の改善」(31.5%)、そして「仕事に復帰する、以前のように家事をするなど、困っていることができるようになること」(17.8%)。患者が最終的に目指しているのは、社会復帰だということがわかる。

「うつ病は再発しやすい病気ですし、治療に時間がかかるケースもありますから、医師とじっくり相談しながら、焦らずに適切な治療を続けること。その上で『リワーク(復職)プログラム』などを利用しながら、社会復帰を目指すのがよいでしょう」(上島教授)

関連キーワード

関連記事

トピックス

米利休氏のTikTok「保証年収15万円」
東大卒でも〈年収15万円〉…廃業寸前ギリギリ米農家のリアルとは《寄せられた「月収ではなくて?」「もっとマシなウソをつけ」の声に反論》
NEWSポストセブン
埼玉では歩かずに立ち止まることを義務づける条例まで施行されたエスカレーター…トラブルが起きやすい事情とは(時事通信フォト)
万博で再燃の「エスカレーター片側空け」問題から何を学ぶか
NEWSポストセブン
趣里と父親である水谷豊
《趣里が結婚発表へ》父の水谷豊は“一切干渉しない”スタンス、愛情溢れる娘と設立した「新会社」の存在
NEWSポストセブン
SNS上で「ドバイ案件」が大騒動になっている(時事通信フォト)
《ドバイ“ヤギ案件”騒動の背景》美女や関係者が証言する「砂漠のテントで女性10人と性的パーティー」「5万米ドルで歯を抜かれたり、殴られたり」
NEWSポストセブン
事業仕分けで蓮舫行政刷新担当大臣(当時)と親しげに会話する玉木氏(2010年10月撮影:小川裕夫)
《キョロ充からリア充へ?》玉木雄一郎代表、国民民主党躍進の背景に「なぜか目立つところにいる天性の才能」
NEWSポストセブン
“赤西軍団”と呼ばれる同年代グループ(2024年10月撮影)
《赤西仁と広瀬アリスの交際》2人を結びつけた“軍団”の結束「飲み友の山田孝之、松本潤が共通の知人」出会って3か月でペアリングの意気投合ぶり
NEWSポストセブン
米利休氏とじいちゃん(米利休氏が立ち上げたブランド「利休宝園」サイトより)
「続ければ続けるほど赤字」とわかっていても“1998年生まれ東大卒”が“じいちゃんの赤字米農家”を継いだワケ《深刻な後継者不足問題》
NEWSポストセブン
田村容疑者のSNSのカバー画像
《目玉が入ったビンへの言葉がカギに》田村瑠奈の母・浩子被告、眼球見せられ「すごいね。」に有罪判決、裁判長が諭した“母親としての在り方”【ススキノ事件公判】
NEWSポストセブン
アメリカから帰国後した白井秀征容疑(時事通信フォト)
「ガイコツが真っ黒こげで…こんな残虐なこと、人間じゃない」岡崎彩咲陽さんの遺体にあった“異常な形跡”と白井秀征容疑者が母親と交わした“不穏なメッセージ” 〈押し入れ開けた?〉【川崎ストーカー死体遺棄】
NEWSポストセブン
赤西と元妻・黒木メイサ
《赤西仁と広瀬アリスの左手薬指にペアリング》沈黙の黒木メイサと電撃離婚から約1年半、元妻がSNSで吐露していた「哺乳瓶洗いながら泣いた」過去
NEWSポストセブン
元交際相手の白井秀征容疑者からはおびただしい数の着信が_(本人SNS/親族提供)
《川崎ストーカー死体遺棄》「おばちゃん、ヒデが家の近くにいるから怖い。すぐに来て」20歳被害女性の親族が証言する白井秀征容疑者(27)の“あまりに執念深いストーカー行為”
NEWSポストセブン
不倫疑惑が報じられた田中圭と永野芽郁
《永野芽郁のほっぺたを両手で包み…》田中圭 仲間の前でも「めい、めい」と呼ぶ“近すぎ距離感” バーで目撃されていた「だからさぁ、あれはさ!」
NEWSポストセブン