ライフ

【著者に訊け】清水潔『殺人犯はそこにいる』で事実を明かす

【著者に訊け】清水潔氏/『殺人犯はそこにいる 隠蔽された北関東連続幼女誘拐殺人事件』/新潮社/1680円

 メディアの仕事は「一つ一つ小さな声を、社会に広く伝えるアンプのようなもの」と、日本テレビ報道局・清水潔記者は言う。

「特に不条理な事件に巻き込まれた人の声なき声には、誰かが耳を傾けないと……。『FOCUS』時代、僕は桶川ストーカー事件(1999年)で亡くなった猪野詩織さんの名誉を何とか回復させたくて前作『遺言―桶川ストーカー殺人事件の真相』を書き、本書『殺人犯はそこにいる』では1979~1996年に栃木・群馬一帯で起きた連続幼女誘拐殺人事件の犠牲者の無念に背中を押されるように真相を追った。

 その過程では足利事件で有罪が確定していた菅家利和さんの冤罪の告発や無罪確定がありましたが、5つの事件が未解決である状況は何も変わってないんです」

 桶川事件で〈警察より先に犯人に辿り着いた「伝説の記者」〉は、足利事件を含む5件に関しても真犯人と思しき人物を特定していた。が、警察は本書が名指しする〈「ルパン」に似た男〉を逮捕しようとはせず、犯人は今もすぐそこで平然と暮らしているのである!

 事件報道には「広がるものと広がらないもの」があるという。『ACTION 日本を動かすプロジェクト』(2008年~)と題した大型特番でそれこそ世論や裁判所をも動かす清水氏は、ある時リストアップされた未解決事件の中から「横山ゆかりちゃん誘拐事件」(1996年)に〈まだ解決していなかったのか〉とマルをつけた。

「ゆかりちゃん事件は週刊誌時代にも取材しているんですが、改めて調べてみると、パチンコ店で幼女が誘拐されて殺害されるケースは思ったより少ないのに、栃木と群馬の県境になぜか集中していた。しかも足利市と太田市はほぼ同じ生活圏で、同一犯の犯行と考える方が自然でした」

 4~8歳の少女が姿を消した5件の事件。問題はうち一件が、菅家氏の無期確定で決着を見ていた足利事件(1990年)だったことだ。しかも公判では本人の自供とDNA型鑑定が決定的証拠とされており、連続性は断たれたかに見えた。が、何かがおかしいと現場に何度も足を運び、目撃者や捜査関係者に取材を重ね捜査の盲点に迫っていく。

「僕が現場に今も通うのは、そこで一人の人が亡くなった事実の重さに立ち返るため。警察のクラブ詰めの記者は捜査側の出す情報は正しいと思いがちですが、そうでない場合もあることに、いい加減気づかないと。

 僕だって警察を敵に回したくなんかないし、検察も報道も事実追求の点では同じ土俵にいると思っていた。でも違うんですね。彼らは逮捕立件という結果を出せる事実だけが大事で、いざとなれば事実を歪めてでも自分を守ろうとすると思い知らされたのが、桶川事件であり、北関東事件でした」

 呆れるのはかつて被害者情報を意図的に流し、桶川事件を〈風俗嬢のB級事件〉に仕立てた警察の〈イメージ操作〉だ。足利事件でも子連れでパチンコに行った親が悪いと遺族が叩かれたが、現場付近で〈赤いスカート〉の少女と歩く男を見たという目撃情報は実質封印された。実はその男こそ、清水氏が直接取材を敢行したルパン似の男なのだが、検察側はDNA鑑定の絶対性を守ろうとしてか、疑惑の男を野に放ったままだ。

「菅家さんにも僕は言ったんです。〈菅家さんが刑務所にいると、どうしても辻褄が合わない〉〈だから排除させていただきました〉とね。僕らが事件を報じてきたのは冤罪報道のためではなく犯人逮捕だとハッキリ言うのが誠意だろうと。

 DNA型の一致にしても実は絶対的ではないことが、本書を読めばわかると思う。どんな科学鑑定も扱うのは人間で、足利同様、DNA型の一致が決め手になった飯塚事件(1992年)で検察側が証拠提出した鑑定写真が一部トリミングされていたことが発覚した時、僕はキレた。この飯塚事件では冤罪を訴える被告の死刑が既に執行され、そうまでして何を守りたいのかも僕は本書で問うたつもりです」

関連記事

トピックス

人気シンガーソングライターの優里(優里の公式HPより)
《音にクレームが》歌手・優里に“ご近所トラブル”「リフォーム後に騒音が…」本人が直撃に語った真相「音を気にかけてはいるんですけど」
NEWSポストセブン
キャンパスライフをスタートされた悠仁さま
《5000字超えの意見書が…》悠仁さまが通う筑波大で警備強化、出入り口封鎖も 一般学生からは「厳しすぎて不便」との声
週刊ポスト
事実上の戦力外となった前田健太(時事通信フォト)
《あなたとの旅はエキサイティングだった》戦力外の前田健太投手、元女性アナの年上妻と別居生活 すでに帰国の「惜別SNS英文」の意味深
NEWSポストセブン
1992年にデビューし、アイドルグループ「みるく」のメンバーとして活躍したそめやゆきこさん
《熱湯風呂に9回入湯》元アイドル・そめやゆきこ「初海外の現地でセクシー写真集を撮ると言われて…」両親に勘当され抱え続けた“トラウマ”の過去
NEWSポストセブン
左:激太り後の水原被告、右:
【激太りの近況】水原一平氏が収監延期で滞在続ける「家賃2400ドル新居」での“優雅な生活”「テスラに乗り、2匹の愛犬とともに」
NEWSポストセブン
折田楓氏(本人のinstagramより)
「身内にゆるいねアンタら、大変なことになるよ!」 斎藤元彦兵庫県知事と「merchu」折田楓社長の“関係”が県議会委員会で物議《県知事らによる“企業表彰”を受賞》
NEWSポストセブン
笑顔に隠されたムキムキ女将の知られざる過去とは…
《老舗かまぼこ屋のムキムキ女将》「銭湯ではタオルで身体を隠しちゃう」一心不乱に突き進む“筋肉道”の苦悩と葛藤、1度だけ号泣した過酷減量
NEWSポストセブン
横山剣(右)と岩崎宏美の「昭和歌謡イイネ!」対談
【横山剣「昭和歌謡イイネ!」対談】岩崎宏美が語る『スター誕生!』秘話 毎週500人が参加したオーディション、トレードマークの「おかっぱ」を生んだディレクターの“暴言”
週刊ポスト
“ボディビルダー”というもう一つの顔を持つ
《かまぼこ屋の若女将がエプロン脱いだらムキムキ》体重24キロ増減、“筋肉美”を求めて1年でボディビル大会入賞「きっかけは夫の一声でした」
NEWSポストセブン
母・佳代さんのエッセイ本を絶賛した小室圭さん
小室圭さん “トランプショック”による多忙で「眞子さんとの日本帰国」はどうなる? 最愛の母・佳代さんと会うチャンスが…
NEWSポストセブン
春の雅楽演奏会を鑑賞された愛子さま(2025年4月27日、撮影/JMPA)
《雅楽演奏会をご鑑賞》愛子さま、春の訪れを感じさせる装い 母・雅子さまと同じ「光沢×ピンク」コーデ
NEWSポストセブン
自宅で
中山美穂はなぜ「月9」で大記録を打ち立てることができたのか 最高視聴率25%、オリコン30万枚以上を3回達成した「唯一の女優」
NEWSポストセブン