国内

日中首脳会談実施されれば東南アジア諸国は裏切り者扱いする

 安倍首相は得意の“緊急会見”で北朝鮮の拉致被害者再調査の合意を誇ってみせた。典型的なまやかし政治だ。これまで北朝鮮は何度も再調査を約束し、そのたびに「見つからなかった」「他に拉致被害者はいなかった」とゼロ回答してきたではないか。こうしたインチキ外交をお膳立てしたのが「総理と毎日会う男」と官邸で呼ばれている斎木昭隆外務事務次官だ。ジャーナリストの武富薫氏がリポートする。

 * * *
 斎木氏が次に仕掛けているのが11月に北京で開かれるAPEC首脳会議での日中首脳会談だ。安倍首相は4月8日、官邸で胡耀邦・元総書記の長男、胡徳平氏(人民政治協商会議常務委員)と面会した。

 胡氏と習近平・総書記とは、親の七光り組である「太子党」仲間で親しい関係として知られる。この面会を受けて、5月に高村正彦・副総裁を団長とする日中友好議員連盟が訪中、共産党序列3位の張徳江・全国人民代表大会常務委員長(国会議長)と会談した。会談の際、高村氏は首脳会談の必要性をこう説いている。

「あなた方は安倍政権を好ましくないと思っているかも知れないが、安倍さんは2018年まで総理をやりますよ。その間、ずっと(首脳会談を)しないつもりですか。そうはいかないでしょう」

 来年の自民党総裁選で安倍氏が再選された場合、2018年まで任期があるという意味だ。 外務省アジア大洋州局の中堅官僚が語る。

「斎木次官はAPECを日中首脳会談の最大のチャンスと考えている。ベトナム、フィリピンをはじめ東南アジア諸国連合は中国の領海侵略に対する反発を強めており、中国批判の首脳宣言を出した。

 いまや中国はASEAN諸国に北京でのAPEC首脳会議をボイコットされることを怖れている。そうした中国の足元を見ると、首脳会談を受け入れやすい状況にある。米国も日中の関係改善を強く望んでいる。だから今のうちに道筋をつけようと、斎木さんは総理に胡耀邦の長男と面会した方がいいとアドバイスしてお膳立てをしてきた」

 対中強硬派と思われている斎木氏が、いつの間にか、高村氏ら親中派とともに首脳会談の根回しを始めたのだ。中国の足元を見るといえば聞こえはいいが、裏を返すと、東南アジア諸国との関係悪化で外交的に窮地に陥っている中国に日本が助け船を出すことに他ならない。しかもここでも米国の意向が働いている。

 ASEAN諸国を何度も歴訪し、「中国包囲網」を構築しようとしてきた安倍首相が、突然、日中首脳会談へと舵を切れば、東南アジアは「日本が裏切った」と見るだろう。斎木氏という1人の外務官僚に操られる安倍首相の“よきにはからえ外交”は、日本が世界の信頼を失う危険をはらんでいる。

※SAPIO2014年7月号

関連キーワード

関連記事

トピックス

水原一平氏はカモにされていたとも(写真/共同通信社)
《胴元にとってカモだった水原一平氏》違法賭博問題、大谷翔平への懸念は「偽証」の罪に問われるケース“最高で5年の連邦刑務所行き”
女性セブン
尊富士
新入幕優勝・尊富士の伊勢ヶ濱部屋に元横綱・白鵬が転籍 照ノ富士との因縁ほか複雑すぎる人間関係トラブルの懸念
週刊ポスト
3大会連続の五輪出場
【闘病を乗り越えてパリ五輪出場決定】池江璃花子、強くなるために決断した“母の支え”との別れ
女性セブン
《愛子さま、単身で初の伊勢訪問》三重と奈良で訪れた2日間の足跡をたどる
《愛子さま、単身で初の伊勢訪問》三重と奈良で訪れた2日間の足跡をたどる
女性セブン
水原一平氏と大谷翔平(時事通信フォト)
「学歴詐称」疑惑、「怪しげな副業」情報も浮上…違法賭博の水原一平氏“ウソと流浪の経歴” 現在は「妻と一緒に姿を消した」
女性セブン
『志村けんのだいじょうぶだぁ』に出演していた松本典子(左・オフィシャルHPより)、志村けん(右・時事通信フォト)
《松本典子が芸能界復帰》志村けんさんへの感謝と後悔を語る “変顔コント”でファン離れも「あのとき断っていたらアイドルも続いていなかった」
NEWSポストセブン
大阪桐蔭野球部・西谷浩一監督(時事通信フォト)
【甲子園歴代最多勝】西谷浩一監督率いる大阪桐蔭野球部「退部者」が極度に少ないワケ
NEWSポストセブン
がんの種類やステージなど詳細は明かされていない(時事通信フォト)
キャサリン妃、がん公表までに時間を要した背景に「3人の子供を悲しませたくない」という葛藤 ダイアナ妃早逝の過去も影響か
女性セブン
水原氏の騒動発覚直前のタイミングの大谷と結婚相手・真美子さんの姿をキャッチ
【発覚直前の姿】結婚相手・真美子さんは大谷翔平のもとに駆け寄って…水原一平氏解雇騒動前、大谷夫妻の神対応
NEWSポストセブン
大谷翔平に責任論も噴出(写真/USA TODAY Sports/Aflo)
《会見後も止まらぬ米国内の“大谷責任論”》開幕当日に“急襲”したFBIの狙い、次々と記録を塗り替えるアジア人へのやっかみも
女性セブン
創作キャラのアユミを演じたのは、吉柳咲良(右。画像は公式インスタグラムより)
『ブギウギ』最後まで考察合戦 キーマンの“アユミ”のモデルは「美空ひばり」か「江利チエミ」か、複数の人物像がミックスされた理由
女性セブン
違法賭博に関与したと報じられた水原一平氏
《大谷翔平が声明》水原一平氏「ギリギリの生活」で模索していた“ドッグフードビジネス” 現在は紹介文を変更
NEWSポストセブン