ライフ

がん細胞にナノの孔開ける組織再生可能の「ナノナイフ」とは

 近年、肝臓がんの局所治療としてラジオ波焼灼(しょうしゃく)療法が実施され効果を挙げている。ラジオ波電流を流し、組織の温度を100℃に上げ、やけどを起こすことで、がん細胞を死滅させる。しかし、太い血管のそばにあるがん細胞は、血液の温度でラジエター効果が起こり、十分に温度が上がらないため、再発の可能性もあった。

 昨年から日本で初めて臨床研究が始まっているのが、ナノナイフ(不可逆電気穿孔〈せんこう〉療法)だ。がん細胞に、ごく短い時間内に高圧電流を流し、がん細胞にナノメートル(1ナノメートル10億分の1メートル)の孔(あな)を開け、死滅させる治療だ。

 ナノナイフは、超音波やCT画像を見ながら、がんの場所に針同士が平行になるように外から2~6本の針を刺す。そこに、1秒間に1回3000ボルトの高圧電流を1万分の1秒流し、がん細胞に孔を開ける。例えば、2センチのがんの場合は、2本の針を刺し、1秒に1回の割合で100回打つ。

 このとき、プラス針からマイナスの針に電気が流れ、がん細胞に孔が開く。治療時間は1分40秒だ。大きながんで6本の針を刺した場合は、電流の通り方は10通りになり、治療時間は約16分かかる。東京医科大学病院消化器内科の森安史典主任教授に話を聞いた。

「これは、そばに血管があっても治療できます。血管の内皮(ないひ)細胞と平滑筋(へいかつきん)細胞には孔が開きますが、血管そのものの構造は保たれます。内皮細胞は2日間で再生し、平滑筋細胞も2週間で再生します。血流が回復するため、幹細胞が細胞分裂し、組織の再生が始まります」

 ナノナイフは、3000ボルトの高圧電流を流すので、横隔膜などの筋肉痙攣の予防と、がん細胞から針がずれないようにするため、全身麻酔で筋弛緩剤を使用する。麻酔のリスクがある場合は、治療の対象にはならない。また、不整脈予防で心臓の収縮期に1秒に1回というペースで電流を流すために、心肺に疾病を持っている人や不整脈の人も治療の対象にはならない。すでに肝臓がんについては、10症例で実施し、効果が出ている。

 現在、膵(すい)がんの臨床研究に向けて、エントリーを受け付けている。膵がんは、周囲に太い血管が多く、浸潤(しんじゅん)していて手術できない症例が多い。今後は転移がない局所進行膵がん(ステージ4A)に対して治療の予定だ。ナノナイフ治療で、がんが小さくなった後に手術する、ダウンステージ効果も期待できる。

■取材・構成/岩城レイ子

※週刊ポスト2015年3月6日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

世界中を旅するロリィタモデルの夕霧わかなさん。身長は133センチ
「毎朝起きると服が血まみれに…」身長133センチのロリィタモデル・夕霧わかな(25)が明かした“アトピーの苦悩”、「両親は可哀想と写真を残していない」オシャレを諦めた過去
NEWSポストセブン
人気シンガーソングライターの優里(優里の公式HPより)
《音にクレームが》歌手・優里に“ご近所トラブル”「リフォーム後に騒音が…」本人が直撃に語った真相「音を気にかけてはいるんですけど」
NEWSポストセブン
キャンパスライフをスタートされた悠仁さま
《5000字超えの意見書が…》悠仁さまが通う筑波大で警備強化、出入り口封鎖も 一般学生からは「厳しすぎて不便」との声
週刊ポスト
事実上の戦力外となった前田健太(時事通信フォト)
《あなたとの旅はエキサイティングだった》戦力外の前田健太投手、元女性アナの年上妻と別居生活 すでに帰国の「惜別SNS英文」の意味深
NEWSポストセブン
エライザちゃんと両親。Facebookには「どうか、みんな、ベイビーを強く抱きしめ、側から離れないでくれ。この悲しみは耐えられない」と綴っている(SNSより)
「この悲しみは耐えられない」生後7か月の赤ちゃんを愛犬・ピットブルが咬殺 議論を呼ぶ“スイッチが入ると相手が死ぬまで離さない”危険性【米国で悲劇、国内の規制は?】
NEWSポストセブン
1992年にデビューし、アイドルグループ「みるく」のメンバーとして活躍したそめやゆきこさん
《熱湯風呂に9回入湯》元アイドル・そめやゆきこ「初海外の現地でセクシー写真集を撮ると言われて…」両親に勘当され抱え続けた“トラウマ”の過去
NEWSポストセブン
左:激太り後の水原被告、右:
【激太りの近況】水原一平氏が収監延期で滞在続ける「家賃2400ドル新居」での“優雅な生活”「テスラに乗り、2匹の愛犬とともに」
NEWSポストセブン
折田楓氏(本人のinstagramより)
「身内にゆるいねアンタら、大変なことになるよ!」 斎藤元彦兵庫県知事と「merchu」折田楓社長の“関係”が県議会委員会で物議《県知事らによる“企業表彰”を受賞》
NEWSポストセブン
笑顔に隠されたムキムキ女将の知られざる過去とは…
《老舗かまぼこ屋のムキムキ女将》「銭湯ではタオルで身体を隠しちゃう」一心不乱に突き進む“筋肉道”の苦悩と葛藤、1度だけ号泣した過酷減量
NEWSポストセブン
横山剣(右)と岩崎宏美の「昭和歌謡イイネ!」対談
【横山剣「昭和歌謡イイネ!」対談】岩崎宏美が語る『スター誕生!』秘話 毎週500人が参加したオーディション、トレードマークの「おかっぱ」を生んだディレクターの“暴言”
週刊ポスト
“ボディビルダー”というもう一つの顔を持つ
《かまぼこ屋の若女将がエプロン脱いだらムキムキ》体重24キロ増減、“筋肉美”を求めて1年でボディビル大会入賞「きっかけは夫の一声でした」
NEWSポストセブン
春の雅楽演奏会を鑑賞された愛子さま(2025年4月27日、撮影/JMPA)
《雅楽演奏会をご鑑賞》愛子さま、春の訪れを感じさせる装い 母・雅子さまと同じ「光沢×ピンク」コーデ
NEWSポストセブン