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日本で権力のメディア操縦は最終段階 監視機能が完全麻痺へ

 総理大臣が「景気がいい」といえば、国民の生活が苦しくても、街頭インタビューでは「安倍さんのおかげで生活が良くなった」という声ばかり流される。そんな世の中になりつつある。

 安倍政権のメディア弾圧は、ついに自民党が元経産官僚・古賀茂明氏の政権圧力発言を放送したテレビ朝日経営陣を呼びつけて事情聴取する事態にエスカレートした。大新聞はようやく「報道の自由」を叫び始めたが、感度が鈍すぎる。

 各紙社説(4月17日付)では、テレ朝の実質親会社である朝日新聞は〈自民党と放送 「介入」は許されない〉と批判。安倍政権を礼賛することが多い読売と産経は、〈テレビ幹部聴取 与党として適切な振る舞いか〉(読売)、〈自民党とテレビ 番組介入は抑制的であれ〉(産経)と抑制的なトーンで批判した。共通するのは、〈「公平」は放送局自身が自律的に尊重すべきであって権力が口出しするものではない〉(毎日)という「報道の自由」の建前だ。

 それは決して間違ってはいない。しかし、今さら白々しいというしかない。

 安倍晋三首相や菅義偉・官房長官はじめ政権幹部たちはこれまでも記者とのオフレコ懇談でメディアを「権力のプロパガンダ機関」に仕立てようとしてきた。権力におもねり、「報道の自由」を行使せず、そうした発言を報じてこなかったのは大新聞である。

 メディア論では権力のメディア操縦は3段階で進むとされる。第1段階は圧力で政権に不利な報道を規制する。第2段階はメディアのトップを懐柔することで組織として政権批判を自主規制させ、3段階では現場の記者たちが問題意識さえ持たなくなって権力監視機能を完全に麻痺させる。

 第2次安倍内閣発足からこれまでの首相と新聞・テレビ局幹部らとの「夜の会食」は2年半でなんと50回に上る。

 ジャーナリズム論が専門の門奈直樹・立教大学名誉教授は、今や第3段階に進んでいることを指摘する。

「メディアが権力と一定の距離を置くべきというのは市民革命以来の先進国の常識。メディアのトップが総理大臣と会食を重ねることは権力との癒着の象徴であり、言語道断です。欧米では、メディアは市民の側に立って権力が市民の権利に立ち入ろうとするのを監視するウォッチドッグ(番犬)と呼ばれる。

 だが、この番犬にはテリアとプードルの2種類あり、愛想のいいプードルメディアはすぐ権力に尻尾を振っていいなりになる。中には権力と一緒になって政治を進めようとするガードドッグ(護衛犬)までいる。政治部記者にはガードドッグが増えている」

※週刊ポスト2015年5月8・15日号

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