英仏独をはじめ世界57か国の参加が決まった中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)。当初は二流の国際銀行と呼ばれたにも関わらず、国連の常任理事国をはじめ多くの国が参加を決めたのはなぜなのか。ジャーナリストの相馬勝氏がリポートする。
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当初はアジアや中央アジアの発展途上国で構成される「二流の国際銀行」(在京外交筋)との位置づけだったAIIBだが、中国指導部による外交攻勢が功を奏したこともあって、英国が3月12日に参加を表明したことで、がらりと流れが変わった。
欧州主要国が次々と加入申請し、結果的に国連の5常任理事国中、米国を除く4か国や経済協力開発機構(OECD)加盟34か国中18か国、ASEAN加盟10か国すべてを含む計52か国・地域が参加を申請。その後、駆け込み申請国も含めて57か国が認可された。
大きなターニングポイントとなった英国の参加を決めたのは、キャメロン英首相の懐刀で、次期首相の有力候補と目されるオズボーン財務相だった。英紙「フィナンシャル・タイムズ」によると、英国経済が低迷するなか、オズボーン氏は中国を世界の新たな経済大国とみなし、戦略地政学的な影響については政府の国家安全保障会議(NSC)で議論されなかった。関係機関に文書が1枚配られただけであり、英外務省首脳は同盟国との相談が十分でなかったことに驚いたというほどだ。
「他の先進国も目の前の利益を逃さないために、『バスに乗り遅れまい』との群集心理にも似た決定をした」と在京外交筋は指摘する。
それでは、アジアでのインフラ投資需要はいかばかりか。アジア開発銀行(ADB)は2010年から20年までの10年間で、8兆ドル(約1000兆円)、年間で8000億ドルと見込んでいる。AIIBはアジアの新興国に鉄道や道路、発電所などのインフラ設備の建設資金を融資する目的で創設されるだけに、いまのところ参加を決めていない日本政府に対して、産業界から「このままではアジア諸国のインフラ建設事業参入に乗り遅れる」との声も出ている。
日本政府は【1】融資基準を明確にすべき【2】参加国に発言権はあるのか【3】アジア開発銀行など既存の国際機関と協力はできるのかなどを中国側に問い合わせていた。しかし、参加申請締め切りの3月末までに返事がなく、態度を留保している状態だ。
これについて、在京の外資系金融関係者は「返事がないというよりも、具体的には何も決まっていないので、言い出しっぺの中国ですら、返事ができないというのが実情だろう」と指摘する。AIIBの組織形態などについてほとんど情報がないにもかかわらず、アリが蜜に群がるように、この莫大な資金需要を目当てに、アジアを中心に欧州や中東から我も我もと名乗りを上げたというのが真実に近いのではないか。
※SAPIO2015年6月号