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韓国に「老舗」少ない理由 料理人が蔑まれていることの結果

 韓国は職業による差別意識が強い。背景にあるのは、「偉い人は何もしない」という、儒教に基づく思想だ。「武」より「文」が重んじられ、額に汗して働くことを軽蔑してきた。日本で言う技術職や現業職など、体を使うのは「下人の仕事」という昔からの思い込みが今もある。

 それが顕著に表れるのが飲食業界だ。日本では、腕の良い板前がいれば「何年修業したの?」「どこで修業したの?」などと、尊敬の念をもって尋ねるものだが、韓国ではそうならない。

 韓国では、料理人とは「他人が食べる飯を作る“つまらない職”の人」でしかないからだ。「料理人なんて誰でもできる仕事」という認識なのである。そんな状態だから「板前気質」など育たない。

 韓国料理の世界には、「五色」という考え方はあるが、日本料理のような見た目の美しさにこだわり、器も含めて「目で楽しむ」という食文化はほとんどない。韓国で街の料理店に行けば、キムチやナムルなどを盛った小皿が次から次へと出てくるが、そこに手の込んだ料理は少ない。皿数だけで勝負している。こだわりを持つ「料理職人」が少ないことの象徴だろう。

 韓国に「老舗」が少ないのも、料理人が蔑まれていることの結果と言える。

 朝鮮日報によれば、「韓食財団」が作った『韓国人が愛する老舗の韓国料理店』という冊子には、ソウルにある50年以上の歴史を持つ韓国料理店として28店が掲載されている。その中で、最も歴史の古い店はドジョウ汁で有名な1904年開業の店だ。創業111年である。

 一方、我が国では創業100年、200年はザラ。東京・日本橋にある有名鳥料理店は、1760年創業で、実に255年の歴史を持つ。あぶり餅で有名な京都の茶店は、2000年以上続いている。日本で老舗が多いのは、喜んでもらえる食事を出す仕事に誇りを持ち、食べるほうも敬意を払っているからだ。

 韓国では、飲食店が評判になって儲かるようになれば、「今のうちに高く売り払おう」と考える経営者が多い。味・サービスを守れる自信がないからだ。蔑まれている料理人にしても、少しでも給与がいい職場があれば転職を厭わない。料理人であることへの「こだわり」は感じられない。

 同じように、モノづくりの技術者も大事にされていないから、転職が多い。結果として、職場に画期的なノウハウが蓄積するようなことはない。中小メーカーが基礎技術の研究に資金を投じることもほとんどない。だから別の会社に移っても、非熟練工は非熟練工のままになってしまう。

 韓国では、今も「職業に貴賤あり」なのだ。

■文/室谷克実(評論家・ジャーナリスト)

※SAPIO2015年11月号

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