国際情報

中国が抱える「2020年問題」 脱一人っ子政策でも打開は困難

 世界一の人口とともに中国社会が抱える社会問題は相当に根が深い。拓殖大学海外事情研究所教授の富坂聰氏が指摘する。

 * * *
 五中全会(中国共産党中央委員第5回全体会議)の前後に発表された生育計画の見直し、いわゆる〝脱一人っ子政策〟は世界中で大きな反響を呼んだ。

 1970年代後半から五月雨式に導入された一人っ子政策は、すでに中国社会に定着し、その第一世代は30代後半に差し掛かかり、逆に子を産む立場になって久しい。一人っ子世代が成長する過程で指摘され続けたのが、急激な人口減少による歪な人口ピラミッドの問題である。今回の〝脱一人っ子政策〟は、人口の歪みが大きな社会問題になりつつあることを受けた修正であり、労働者の定年引き上げとワンセットになった社会保障対策であることは言うまでもない。

 すでに一人っ子の枠に対する緩和は、段階的に行われてきていたのだが、ここにきて思い切って無条件に2人までの出産を認めるとした決定の裏側には、実は中国政府が恐れる「2020年問題」への危機感があったとされている。

 では「2020年問題」とは何なのか。

「これは”就職難”、”結婚難”、”養老難”、3つの”難”を指しているのですが、この3つの”難”が具体的な社会現象として先鋭化するのが5年後、つまり2020年だと考えられているということです」(北京のシンクタンク研究員)

 その根拠となっているのが人口に関するいくつかの統計である。

 まず”結婚難”であるが、これは一人っ子政策が生みだした歪な男女比に起因する。男女の人口比の問題はこの欄でも指摘したことがあるが、通常、女性100に対して男性が102から107の間になるとされているのに、中国では最大で121にまで拡大。その後は改善が見られたものの、2014年時点でもまだ115.9という高水準にあるのだ。

 これが2020年時点でどうなるのかといえば、24歳から28歳まで人口を男女で比べてみると、男性が4900万人なのに対して女性は3900万人と、1000万人も少ないことがわかる。明らかに男性の結婚難を予感させる数字だが、一説には3000万人以上の男性が結婚できなくなるともいわれている。

 次に”就職難”はどうだろうか。これは生産年齢人口問題と言い換えても良い指摘だが、要するに労働者の数が減り経済のパイが縮小することで就職の機会が失われるということを意味している。

 根拠となっている数字は少子化である。中国における0歳から14歳までの人口が全体に占める割合は、1982年には33.6%であったが、それが2014には16.5%にまで下がっているという問題だ。この弊害が社会の中で深刻化するのが2020年からとされていて、20歳から34歳までの生年の人口は、2022年から2025年までの4年间、毎年1100万人以上ずつ減ってゆく計算になるというのだ。

 最後に、指摘される”養老難”はどうだろうか。中国の65歳以上の人口は2014年ですでに1億3700万人に達していて、全人口に占める割合は10.1%とされている。これが2050年には4億人を超え、全人口に占める割合も30%に達するという。この高速で進む高齢化の入り口こそが2020年なのである。

 この3つの”難”が中国社会に相当大きなプレッシャーとなることは間違いない。

関連キーワード

トピックス

佳子さまの“着帽なし”の装いが物議を醸している(写真/共同通信社)
「マナーとして大丈夫なのか」と心配の声も…佳子さま“脱帽ファッション”に込められた「姉の眞子さんから受け継ぐ」日本の伝統文化への思い
週刊ポスト
「秋の園遊会」に出席された天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年10月28日、撮影/JMPA)
《秋の園遊会》 赤色&花の飾りで“仲良し”コーデ 愛子さまは上品なきれいめスタイル、佳子さまはガーリーなデザイン
NEWSポストセブン
(写真/アフロ)
《155億円はどこに》ルーブル美術館強盗事件、侵入から逃走まで7分間の「驚きの手口」 盗まれた品は「二度と表世界には戻ってこない」、蒐集家が発注の可能性も 
女性セブン
真美子さんが“奥様会”の写真に登場するたびに話題に(Instagram /時事通信フォト)
《ピチピチTシャツをデニムジャケットで覆って》大谷翔平の妻・真美子さん「奥様会」での活動を支える“元モデル先輩ママ” 横並びで笑顔を見せて
NEWSポストセブン
ミントグリーンのワンピースをお召しになった佳子さま(写真はブラジル訪問時。時事通信フォト)
《ふっくらした“ふんわり服”に》秋篠宮家・佳子さまが2度目の滋賀訪問で表現した“自分らしい胸元スッキリアレンジ”、スタイリストが解説
NEWSポストセブン
クマによる被害が相次いでいる(左・イメージマート)
《男女4人死傷の“秋田殺人グマ”》被害者には「顔に大きく爪で抉られた痕跡」、「クラクションを鳴らしたら軽トラに突進」目撃者男性を襲った恐怖の一幕
NEWSポストセブン
遠藤
人気力士・遠藤の引退で「北陣」を襲名していた元・天鎧鵬が退職 認められないはずの年寄名跡“借株”が残存し、大物引退のたびに玉突きで名跡がコロコロ変わる珍現象が多発
NEWSポストセブン
「全国障害者スポーツ大会」を観戦された秋篠宮家・次女の佳子さま(2025年10月26日、撮影/JMPA)
《注文が殺到》佳子さま、賛否を呼んだ“クッキリドレス”に合わせたイヤリングに…鮮やかな5万5000円ワンピで魅せたスタイリッシュなコーデ
NEWSポストセブン
本拠地で大活躍を見せた大谷翔平と、妻の真美子さん
《スイートルームを指差して…》大谷翔平がホームラン後に見せた“真美子さんポーズ”「妻が見に来てるんだ」周囲に明かす“等身大でいられる関係”
NEWSポストセブン
相撲協会と白鵬氏の緊張関係は新たなステージに突入
「伝統を前面に打ち出す相撲協会」と「ガチンコ競技化の白鵬」大相撲ロンドン公演で浮き彫りになった両者の隔たり “格闘技”なのか“儀式”なのか…問われる相撲のあり方
週刊ポスト
女優・八千草薫さんの自宅が取り壊されていることがわかった
《女優・八千草薫の取り壊された3億円豪邸の今》「亡き夫との庭を遺してほしい」医者から余命宣告に死の直前まで奔走した土地の現状
NEWSポストセブン
左から六代目山口組・司忍組長、六代目山口組・高山清司相談役/時事通信フォト、共同通信社)
「六代目山口組で敵う人はいない」司忍組長以上とも言われる高山清司相談役の“権力” 私生活は「100坪豪邸で動画配信サービス視聴」も
NEWSポストセブン