二軍を経験して良かったことは、二度とここ(二軍)には戻りたくないと思えることだ。お客さんがいないところで野球をやる虚しさ、打っても打っても自信のつかない不安。昔の人は「若い時の苦労は買ってでもしろ」といういい言葉を残したが、まさにその通りで、苦労しているかどうかは、その後の人生に大きく生きる。
スター選手の代表格といえる王貞治、長嶋茂雄のONは確かに天才的な選手だったが、その余りある才能ゆえに苦労を知らず、それぞれの哲学がなかった。だから監督としてはまったく怖くなかった。
ONに共通していたのは、目の前の試合に一喜一憂していたことだ。味方がホームランを打つと、選手と同じようにベンチを飛び出してきていた。恐らく心のどこかに、現役時代と同様の「自分が一番目立ちたい」という気持ちがあったのだろう。私にはその心境が分からなかった。最近では原辰徳がまさにこれだった。
確かに自軍の選手がいいプレーをすれば嬉しいし、リードすれば「よし!」とは思う。しかし、監督というものは「ではこの先どう守ろうか、どう逃げ切ろうか」が気になるのが普通だ。子どものようにはしゃいでいるヒマはない。
現に、川上哲治(巨人)さんや西本幸雄(阪急など)さんが試合展開によって一喜一憂していただろうか。監督が初めて喜びを露わにするのは、ゲームセットで勝ちを収めた時だ。どんなに勝っても仏頂面だった落合博満(現中日GM)までいくともはや変人だが、まだONや原辰徳(巨人)よりはマシだ。
高橋や金本も、スター街道を歩んできた選手である。先輩たちと同じ轍を踏んでしまわないだろうかということが気になっている。
※週刊ポスト2016年1月1・8日号