昨年初め、国連の女性差別撤廃委員会が日本の天皇制について、男系と定めている事が女性への差別だとして、皇室典範の改正を求める勧告を準備しているというニュースが駆け巡った。
国連の一部委員会はリベラル勢力と中国韓国両政府の意を受けた勢力が融合し、反日キャンペーンに利用されるケースが少なくない。女性差別撤廃委員会にも中国と韓国の委員がいる。
そして昨年3月にまとめられた最終見解では、天皇制についての記述は日本政府の抗議によって削除されたものの、慰安婦問題について金銭賠償や公式謝罪を求める勧告が入った。
まるで中韓の主張をそのまま書き込んだような慰安婦の報告をまとめる委員会が、天皇制について皇室典範の改正を求める動きを見せた事は、政府内で大きな違和感を持って受け止められた。
民進党は旧民主党時代に永住外国人参政権や朝鮮王室儀軌返却など、韓国との宥和的政策を推進したことで知られる。また菅直人と野田佳彦は韓国籍の外国人や民団関係者から献金を受け取っていた事がわかり問題となっただけに、今回の民進党の動きに韓国ファクターという疑念を抱く関係者がいるようだ。
民進党は譲位問題を「政争の具にはしない」とする一方、「典範改正」に加え「女系天皇」「女性宮家」の議論も提起した。しかし譲位とは無関係であるはずのこれらを議論の俎上に乗せる意図は明確に示されていない。
これは野田が陛下のご意向を背負って立てた方針なのか。あるいはこの議論を国際社会も巻き込んだ「男尊女卑論争」に拡大し安倍政権を揺さぶる事が目的なのか。憲法が天皇の政治関与を禁じている以上、陛下のご意向の全体像が明らかにされることはない。
「宮内庁の一部は次の天皇の譲位を視野に入れている」という憶測すら流れる中、この議論は「陛下のご意向」というブラックボックスを巡って政策と政局が入り混じる展開が続く事になる。
●やまぐち・のりゆき/1966年東京生まれ。ジャーナリスト。アメリカシンクタンク客員研究員。1990年慶應義塾大学経済学部卒、TBS入社。報道カメラマン、臨時プノンペン支局、ロンドン支局、社会部を経て2000年から政治部。2013年からワシントン支局長を務める。2016年5月TBSを退職。安倍政権の舞台裏を克明に綴った『総理』が反響を呼ぶ。
※SAPIO2017年3月号