1クール、視聴時間にしてみれば決して短くはないドラマを魅力的なものに保ち続けるためには、脇役の存在が極めて重要だ。ドラマウォッチを続ける作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が指摘する。
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いよいよクライマックスを迎えつつある秋ドラマ。胸キュンのラブロマンス、人生の選択について考えさせられるお仕事系、時空を飛んで話芸の世界に引きこまれる異色作と、個性的なドラマ作品が揃い踏み。
考えみると、魅力的なドラマとは主役たちがぐいぐい引っ張っていくのが大前提としても、それだけでは成立しないはずです。脇に必ずキラリと光る役者がいて、彼ら・彼女らが演じることでドラマ世界に深味が出てくる。一筋縄ではいかない複雑さも生まれてくる。それが視聴者にとって、もっと見てみたい、もっと物語を感じたい、という意欲につながっていくのでしょう。
ということで、無くてはならない「スパイス役」として活躍する、秋ドラマ「脇役」3人を挙げると……。
◯小池徹平
『大恋愛~僕を忘れる君と』(TBS系金曜22時)で主人公・尚(戸田恵梨香)と同じ若年性アルツハイマー症を患う松尾公平を演じる小池徹平さん。
もしも「松尾」という存在が、このドラマに登場しなかったら……? 主役・戸田さんと真司役・ムロツヨシさんの好演による胸キュン恋愛もの、しかしストーリーはどこかで見たような記憶喪失にまつわる美しいラブロマンスになっていたのかも。
しかし、突如現れた「危険」な存在がこの物語に複雑な奥行き感を与えています。三角関係など恋愛にからむ単純な役柄ではない。尚と同じくアルツハイマー病を患う松尾は、尚に異常接近し、悪魔的行動を繰り返していく不気味な人物です。
そう、小池徹平さんが“かわいらしいビジュアル”であればあるほど、微笑みながら登場すればするほど、その悪魔性が際立ってくる。これまであまり見たことのなかった「不気味な小池徹平」がスパイスとなりキラリ光っています。新たな役者イメージを開拓しよう、というチャレンジングな姿も見物です。
◯菊地凛子
『獣になれない私たち』(日テレ系水曜22時)で、恒星(松田龍平)の元恋人役・呉羽として登場。舌足らずでひっかかるような話し方。ハードコアな衣装もさらりと着こなすモデルにしてデザイナー。天然で自己中で、鈍い人かと思ったら実は繊細。複雑な過去を乗り越えた結果として、今の「自由奔放」な姿がある──という人物設定です。
そう、「呉羽」というキャラクターは、この物語にとって無くてはならない存在です。なぜなら、主人公・晶(新垣結衣)とは、正反対の性格(のように見える)、つまり「獣」だから。呉羽がいることによって「獣になれない」晶の立ち位置もはっきりする。いわば主人公を反射する鏡のような機能を呉羽は持っています。菊地さんにしかできない、実に個性的な演技と言えるでしょう。