華人たちは移民後も「愛祖籍国」活動に熱心だ。なかでも近年の流行は、政治参加に成功した華人系議員を通じて、南京事件(南京大虐殺)があった12月13日を記念日として制定する運動である。本来、事件の実態には諸説あるが、華人たちの運動では「犠牲者30万人」「強姦被害者2万~8万人」という、必ずしも学術的根拠が明確ではない中国政府の解釈が無批判に引用・主張されている。
カナダは戦勝国とはいえ、中国戦線との関係は薄い。だが、民主主義国であるため、人数規模が大きい華人系住民の主張が現地の政治に影響を及ぼすのである。2017年10月には東部のオンタリオ州議会で、香港系議員が提起した記念日制定動議が採択された。
また、バンクーバー南部のリッチモンド市に地盤を置く香港系のBC州議、テレサ・ワット(屈潔冰)も、2018年10 月に同様の動議を提出した。こちらは台湾系州議の反対もあり不成立に終わったが、市内の事務所で取材に応じたテレサは「私の役目は選挙民の声を議会に届けること」「住民の求めに応じた」と、動議の理由を語る。
「ただ、次回選挙の得票を目的に提唱したわけではありません。南京大虐殺は歴史の教訓として記念されるべきです」
そうは言うものの、人口20万人程度のリッチモンド市民の7割は華人だ。街には中国人しかいない大規模スーパーやショッピングモールが立ち並ぶ。夜には中国人富裕層のドラ息子たちが、公道上でベンツやBMWを駆りカーレースを楽しんでいるという。
そんな「華人都市」の議員が支持基盤を固めるキーになるのは、華人コミュニティをたばねる洪門や中華会館のような組織である。
「テレサは洪門の構成員ではないが、友人だ。私個人とは仕事のつながりもある」
洪門総本部で取材に応じた、洪門バンクーバー支部の現主任委員、セシル・フン(馮治中)はそう証言する。
◆日系人との摩擦も