事実が求められているときに、イデオロギーや政治信条をもとに「脅し」「煽り」「騙し」に走る者たちは、自分の社会的責務を考えることはないのだろうか。
もちろん、報道や言論は自由であるべきだ。しかし、少なくともジャーナリズムを標榜するのであれば、最低限の事実の確認、専門分野の理解がなければ、扇動者の誹りを免れない。
残念ながら、雑誌報道のなかにもヒドイ中身のものが少なくない。例えば、原発事故の危機を報じる某誌記事では、これでもかと最悪の事態を予測してみせるのだが、科学的根拠を無視した、あるいは理解の浅い記者が「結果ありき」で書いたと思われる記述が数多く見られる。例えば、
〈いったんメルトダウンすれば、次々と核分裂を起こして制御不能になる再臨界まで一直線だ。〉
と脅すのだが、全くの間違いである。福島第一原発の炉心では、すでに部分的なメルトダウンが起きており、それは再臨界にすぐにつながるものではない。事実、そうはなっていない。
再臨界を起こすには、核燃料を高密度に集める必要があるし、すでに炉心には臨界を止めるホウ酸などの物質が入れられているから、溶けた燃料が集まっても臨界が起きるとは限らない。燃料棒と一緒に溶けていると思われる制御棒の成分も臨界を止める作用がある。
仮に圧力容器ごと溶ける重大なメルトダウンが起きても、すぐにチェルノブイリ原発事故のような放射性物質の広域拡散にならないことも、本誌が前々号(4月1日号)で報じた通りである。
そもそも「臨界」を「核爆発」と勘違いしていると思われる報道が多数あるのだが、臨界とは「1回の核分裂が、1回以上の核分裂を起こす状態」を指すにすぎず、「爆発」とは関係ない。この状態を保つと核分裂が自然に続いていくから、正常に運転中の原発の炉心は常に臨界状態に保たれているのだ。臨界=核爆発というのが、いかに非科学的な話かわかるだろう。「被曝」を「被爆」と思い込んでいる記者もいまだに多い。
このような話を、「専門家っぽい」肩書きの人たちが語ることが、さらに不安を煽っている。
※週刊ポスト2011年4月15日号