ライフ

喪失感抱えたすべての人に読んでもらいたい本を香山リカ紹介

【書評】『悲しみの中にいる、あなたへの処方箋』(垣添忠生著/新潮社/1365円)

評者:香山リカ(精神科医)

 * * *
 戦後最悪の自然災害となった東日本大震災。その犠牲者の数が1万、2万と言われようとも、家族や知人にとっては、あくまで“ひとりひとりの死”なのだ。
 
 また、家族とともに家、財産、仕事なども失い、呆然としている人もいるだろう。さらに、直接の被災者ではない人たちも、テレビの映像などを通して「日本から何かが失われた」と大きなショックを受けているはずだ。

 そんな喪失感を抱えたすべての人たちに読んでもらいたいのが、がん専門医である垣添忠生氏が、グリーフケア(悲嘆を癒す)についてわかりやすく記した本書だ。

 医学者が書いた本といっても、決して難解な解説書ではない。第1章では、著者自身が愛妻をがんで失ったときの壮絶な悲しみと回復の過程が率直に語られる。そして2章以降では、一般に親しい人と死別した場合にどんな反応や症状が起きるのかが、具体例をあげながら示される。

「“ショックが大きすぎて悲しめない”という感情のマヒ」「“そんなはずはない”という否認」「“こうしていたら”という罪悪感」「“誰もわかってくれない”という疎外感」など、ひとつひとつ説明されることで、混乱の中にいる人も気持ちが整理されるのではないだろうか。

 さらに最終章では、悲嘆に暮れる人たちへの処方箋も添えられている。その中で著者が繰り返すのは、「悲しいのはあたりまえ。しっかり涙を流し、無理をせずに苦痛を吐き出しなさい」ということだ。「もう平気」とやせがまんをせずに、「淋しさで胸がいっぱいになっているときに『淋しい』と、そっとつぶやくだけでもよい」という。著者自身、死別からすでに3年がたつが、それでも「ひとりで自宅に帰ると、やはり悲しみが毎晩のように訪れてきます」とも打ち明ける。

 しかし、それでよいのだ。愛する人や土地との別れが、悲しくないわけはない。「悲しみを抱いたまま生きる生活に慣れて」という著者の言葉をかみしめながら、私たちもこれから生きていきたい。

※週刊ポスト2011年4月22日号

関連記事

トピックス

話題を集めた佳子さま着用の水玉ワンピース(写真/共同通信社)
《夏らしくてとても爽やかとSNSで絶賛》佳子さま“何年も同じ水玉ワンピースを着回し”で体現する「皇室の伝統的な精神」
週刊ポスト
ヒグマの親子のイメージ(時事通信)
《駆除個体は名物熊“岩尾別の母さん”》地元で評判の「大人しいクマ」が人を襲ったワケ「現場は“アリの巣が沢山出来る”ヒヤリハット地点だった」【羅臼岳ヒグマ死亡事故】
NEWSポストセブン
真美子さんが信頼を寄せる大谷翔平の代理人・ネズ・バレロ氏(時事通信)
《“訴訟でモヤモヤ”の真美子さん》スゴ腕代理人・バレロ氏に寄せる“全幅の信頼”「スイートルームにも家族で同伴」【大谷翔平のハワイ別荘訴訟騒動】
NEWSポストセブン
決勝の相手は智弁和歌山。奇しくも当時のキャプテンは中谷仁で、現在、母校の監督をしている点でも両者は共通する
1997年夏の甲子園で820球を投げた平安・川口知哉 プロ入り後の不調について「あの夏の代償はまったくなかった。自分に実力がなかっただけ」
週刊ポスト
中居正広氏の騒動はどこに帰着するのか
《中居正広氏のトラブル事案はなぜ刑事事件にならないのか》示談内容に「刑事告訴しない」条項が盛り込まれている可能性も 示談破棄なら状況変化も
週刊ポスト
離婚を発表した加藤ローサと松井大輔(右/Instagramより)
「ママがやってよ」が嫌いな言葉…加藤ローサ(40)、夫・松井大輔氏(44)に尽くし続けた背景に母が伝えていた“人生失敗の3大要素”
NEWSポストセブン
ヒグマの親子のイメージ(時事通信)
【観光客が熊に餌を…】羅臼岳クマ事故でべテランハンターが指摘する“過酷すぎる駆除活動”「日当8000円、労災もなし、人のためでも限界」
NEWSポストセブン
2013年に結婚した北島康介と音楽ユニット「girl next door」の千紗
《金メダリスト・北島康介に不倫報道》「店内でも暗黙のウワサに…」 “小芝風花似”ホステスと逢瀬を重ねた“銀座の高級老舗クラブ”の正体「超一流が集まるお堅い店」
NEWSポストセブン
夏レジャーを普通に楽しんでほしいのが地域住民の願い(イメージ)
《各地の海辺が”行為”のための出会いの場に》近隣住民「男性同士で雑木林を分け行って…」 「本当に困ってんの、こっちは」ドローンで盗撮しようとする悪趣味な人たちも出現
NEWSポストセブン
2013年に結婚した北島康介と音楽ユニット「girl next door」の千紗
《北島康介に不倫報道》元ガルネク・千紗、直近は「マスク姿で元気がなさそう…」スイミングスクールの保護者が目撃
NEWSポストセブン
娘たちとの関係に悩まれる紀子さま(2025年6月、東京・港区。撮影/JMPA)
《眞子さんは出席拒否の見込み》紀子さま、悠仁さま成年式を控えて深まる憂慮 寄り添い合う雅子さまと愛子さまの姿に“焦り”が募る状況、“30度”への違和感指摘する声も
女性セブン
違法薬物を所持したとして不動産投資会社「レーサム」の創業者で元会長の田中剛容疑者が逮捕された
「ローションに溶かして…」レーサム元会長が法廷で語った“薬物漬けパーティー”のきっかけ「ホテルに呼んだ女性に勧められた」【懲役2年、執行猶予4年】
NEWSポストセブン