国内

大前研一氏 東京電力の危機管理能力が低下した原因を指摘

 福島第一原子力発電所の事故対応では、東京電力の危機管理能力のなさが露呈した。なぜこうした事態に至ったのか? 大震災直後から説得力のある鋭い分析が注目され、講演を収録した映像がYouTubeに流れるや累計190万アクセスという大反響を呼んでいる大前研一氏が、詳細に検証する。
 
* * *
 東電の危機管理能力がここまで低下した1つの原因は、旧自民党政権との「癒着構造」である。
 
 旧自民党政権は、東電をはじめとする電力会社を景気対策の道具に使ってきた。たとえば、景気対策であと2000億円必要だとなると、予算を組まずに東電や関電などを呼びつけ、2000億円分の設備投資を要求する。電力会社はそれに従い、不要不急のハコものを造る。そういうことを繰り返してきたのである。
 
 そして景気対策に協力する見返りとして、電力会社に対する政府の監督の目は甘くなった。世界標準の2倍くらいの電気料金を認め、原発の安全審査を厳しくする代わりに、住民対策ができていれば認可しよう、という倒錯した発想が咎められることもなかった。
 
 だが、1979年にアメリカでスリーマイル島原発事故が起きたことで、その癒着構造に綻びが生じてきた。同事故以降、アメリカでは新たな原発を造ることができなくなった。このため、さしものGEもだんだん原子炉エンジニアがいなくなってイノベーションがなくなり、既存炉の運用とメンテナンスが中心となり、次第に技術力が低下した。
 
 一方、日本では地元住民の原発反対運動が強まる中で、政府は国策として原子力産業を推進していながら、原発が立地する地元の説得は電力会社に押し付けてきた。そこで電力会社はどうしたか? ひたすらカネをバラ撒き、地元を懐柔した。その結果、ひとたび原発を受け入れた自治体には、福島第一原発や新潟県の柏崎刈羽原発のように、原子炉が1か所に6基も7基も集中するという歪んだ構造になった。それが今回の4基同時に損傷する大惨事につながったのである。
 
 しかも、東電の場合はGEとの蜜月関係が崩れた影響で2002年、圧力容器にヒビ割れがあることを隠しているというGEの下請けのエンジニアによる内部告発を受けた。この「原発トラブル隠し」が大問題となって当時の会長と社長が辞任に追い込まれ、福島第一原発所長を20年経験した常務をはじめとする原子力畑の人間はことごとく粛清された。
 
 その後の東電は、供給力の35%を原子力に依存していながら原子力エンジニアを忌み嫌う会社になり、経営陣の大半を人事や総務、経理など事務系の人間が占めるようになった。その典型が、体調を崩して入院した調達部門出身の清水正孝社長である。今回、東電の危機管理能力が低くて対応が鈍いのは、複雑きわまりない原発の内部構造を熟知している人間が上層部にいないからでもある。

※SAPIO2011年5月4・11日号

関連キーワード

トピックス

俳優の松田翔太、妻でモデルの秋元梢(右/時事通信フォト)
《松田龍平、翔太兄弟夫婦がタイでバカンス目撃撮》秋元梢が甥っ子を優しく見守り…ファミリーが交流した「初のフォーショット」
NEWSポストセブン
世界が驚嘆した大番狂わせ(写真/AFLO)
ラグビー日本代表「ブライトンの奇跡」から10年 名将エディー・ジョーンズが語る世界を驚かせた偉業と現状「リーチマイケルたちが取り戻した“日本の誇り”を引き継いでいく」
週刊ポスト
佳子さまを撮影した動画がXで話題になっている(時事通信フォト)
《即完売》佳子さま、着用した2750円イヤリングのメーカーが当日の「トータルコーディネート」に感激
NEWSポストセブン
国連大学50周年記念式典に出席された天皇皇后両陛下(2025年9月18日、撮影/JMPA)
《国連大学50周年記念式典》皇后雅子さまが見せられたマスタードイエローの“サステナブルファッション” 沖縄ご訪問や園遊会でお召しの一着をお選びに 
NEWSポストセブン
豪雨被害のため、M-1出場を断念した森智広市長 (左/時事通信フォト、右/読者提供)
《森智広市長 M-1出場断念の舞台裏》「商店街の道の下から水がゴボゴボと…」三重・四日市を襲った記録的豪雨で地下駐車場が水没、高級車ふくむ274台が被害
NEWSポストセブン
「決意のSNS投稿」をした滝川クリステル(時事通信フォト)
滝川クリステル「決意のSNS投稿」に見る“ファーストレディ”への準備 小泉進次郎氏の「誹謗中傷について規制を強化する考え」を後押しする覚悟か
週刊ポスト
アニメではカバオくんなど複数のキャラクターの声を担当する山寺宏一(写真提供/NHK)
【『あんぱん』最終回へ】「声優生活40年のご褒美」山寺宏一が“やなせ先生の恩師役”を演じて感じた、ジャムおじさんとして「新しい顔だよ」と言える喜び
週刊ポスト
林家ペーさんと林家パー子さんの自宅で火災が起きていることがわかった
《部屋はエアコンなしで扇風機が5台》「仏壇のろうそくに火をつけようとして燃え広がった」林家ぺー&パー子夫妻が火災が起きた自宅で“質素な暮らし”
NEWSポストセブン
1年ほど前に、会社役員を務める元夫と離婚していたことを明かした
《ロックシンガー・相川七瀬 年上夫との離婚明かす》個人事務所役員の年上夫との別居生活1年「家族でいるために」昨夏に自ら離婚届を提出
NEWSポストセブン
“高市潰し”を狙っているように思える動きも(時事通信フォト)
《前代未聞の自民党総裁選》公明党や野党も“露骨な介入”「高市早苗総裁では連立は組めない」と“拒否権”をちらつかせる異例の事態に
週刊ポスト
佳子さまを撮影した動画がXで話題になっている(時事通信フォト)
《佳子さまどアップ動画が話題》「『まぶしい』とか『神々しい』という印象」撮影者が振り返る “お声がけの衝撃”「手を伸ばせば届く距離」
NEWSポストセブン
秋場所
「こんなことは初めてです…」秋場所の西花道に「溜席の着物美人」が登場! 薄手の着物になった理由は厳しい暑さと本人が明かす「汗が止まりませんでした」
NEWSポストセブン