国内

25%の被災者が「みんなと一緒がいい」と仮設住宅を拒否

いまなお多くの被災者が避難所生活を余儀なくされている。数多くの仮設住宅の建設が待たれるところだが、被災者の気持ちは決してそういうわけでもないのだという。ノンフィクション作家・河合香織氏が、被災者の複雑な心境を伝える。

* * *
福島第一原子力発電所から45kmの福島県三春町。そこに暮らす作家であり、禅宗の僧侶である玄侑宗久さん(55)はいう。

「非日常を続けていくことはあまりにストレスなので難しい。だから、そこから日常に戻ろうとするのはある意味当たり前のことなんです」

三春町の住民もまた、原発を恐れて避難をする人が後を絶たなかったという。避難については役所に届けるわけではないが、新聞販売店に新聞をしばらく止めてくれるようにという連絡がはいるために、誰がいなくなったかということが明らかになるそうだ。

「5000世帯余りが暮らす町ですが、そのうち120世帯ほどは避難したようです。行った先がお金のかかる場所であれば経済的に負担ですし、そうでない場所であったとしても、精神的にストレスフルだったのでしょう。放射線を意識しないで地元で暮らし続ける人よりも、避難した人のほうが実は多大なストレスを感じていたのだと思います。だからこそ、原発が落ち着いたともまだいえない状況なのにもかかわらず、そのうち75世帯はすでに町に戻ってきました」

この町から全国へ避難する人がいた一方、原発から20km圏内の住民はこの町に避難してきている。避難者は体育館などで雑魚寝をしているというが、町にもようやく仮設住宅ができはじめる。

「仮設住宅に申し込みますか?」

そんなアンケートをとったところ、「申し込まない」という人が驚くことに25%もいたのだという。なぜプライバシーもなく不便な体育館を選ぶのか。それは「みんなと一緒にいたい。一緒に避難してきたのだから」という気持ちからではないかと玄侑さんは読み解く。

「政府はあちこちの温泉旅館を借り上げて、避難者に開放しています。そちらであれば3食ついて、温泉にもはいれる。それなのに数日温泉にいただけで、もう一度避難所に戻ってきてしまう人が少なくありません。

それも先ほどの仮設住宅の話と同じことでしょう。自分たちの苦しみをわかってくれるのは、一緒に避難してきた人たちだけだという絆が生まれているのです。その絆が切れてしまうのは、生活の苦労よりも、人間にとってはずっと悲しいことなのでしょう」

※女性セブン2011年5月12日・19日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

安福久美子容疑者(69)の高場悟さんに対する”執着”が事件につながった(左:共同通信)
「『あまり外に出られない。ごめんね』と…」”普通の主婦”だった安福久美子容疑者の「26年間の隠伏での変化」、知人は「普段通りの生活が“透明人間”になる手段だったのか…」《名古屋主婦殺人》
NEWSポストセブン
兵庫県知事選挙が告示され、第一声を上げる政治団体「NHKから国民を守る党」党首の立花孝志氏。2024年10月31日(時事通信フォト)
《名誉毀損で異例逮捕》NHK党・立花孝志容疑者は「NHKをぶっ壊す」で政界進出後、なぜ“デマゴーグ”となったのか?臨床心理士が分析
NEWSポストセブン
2025年九州場所
《デヴィ夫人はマス席だったが…》九州場所の向正面に「溜席の着物美人」が姿を見せる 四股名入りの「ジェラートピケ浴衣地ワンピース女性」も登場 チケット不足のなか15日間の観戦をどう続けるかが注目
NEWSポストセブン
「第44回全国豊かな海づくり大会」に出席された(2025年11月9日、撮影/JMPA)
《海づくり大会ご出席》皇后雅子さま、毎年恒例の“海”コーデ 今年はエメラルドブルーのセットアップをお召しに 白が爽やかさを演出し、装飾のブレードでメリハリをつける
NEWSポストセブン
昨年8月末にフジテレビを退社した元アナウンサーの渡邊渚さん
「今この瞬間を感じる」──PTSDを乗り越えた渡邊渚さんが綴る「ひたむきに刺し子」の効果
NEWSポストセブン
三田寛子と能條愛未は同じアイドル出身(右は時事通信)
《中村橋之助が婚約発表》三田寛子が元乃木坂46・能條愛未に伝えた「安心しなさい」の意味…夫・芝翫の不倫報道でも揺るがなかった“家族としての思い”
NEWSポストセブン
三重県を訪問された天皇皇后両陛下(2025年11月8日、撮影/JMPA)
「秋らしいブラウンコーデも素敵」皇后雅子さま、ワントーンコーデに取り入れたのは30年以上ご愛用の「フェラガモのバッグ」
NEWSポストセブン
八田容疑者の祖母がNEWSポストセブンの取材に応じた(『大分県別府市大学生死亡ひき逃げ事件早期解決を願う会』公式Xより)
《別府・ひき逃げ殺人》大分県警が八田與一容疑者を「海底ゴミ引き揚げ」 で“徹底捜査”か、漁港関係者が話す”手がかり発見の可能性”「過去に骨が見つかったのは1回」
愛子さま(撮影/JMPA)
愛子さま、母校の学園祭に“秋の休日スタイル”で参加 出店でカリカリチーズ棒を購入、ラップバトルもご観覧 リラックスされたご様子でリフレッシュタイムを満喫 
女性セブン
悠仁さま(撮影/JMPA)
悠仁さま、筑波大学の学園祭を満喫 ご学友と会場を回り、写真撮影の依頼にも快く応対 深い時間までファミレスでおしゃべりに興じ、自転車で颯爽と帰宅 
女性セブン
クマによる被害が相次いでいる(getty images/「クマダス」より)
「胃の内容物の多くは人肉だった」「(遺体に)餌として喰われた痕跡が確認」十和利山熊襲撃事件、人間の味を覚えた“複数”のツキノワグマが起こした惨劇《本州最悪の被害》
NEWSポストセブン
近年ゲッソリと痩せていた様子がパパラッチされていたジャスティン・ビーバー(Guerin Charles/ABACA/共同通信イメージズ)
《その服どこで買ったの?》衝撃チェンジ姿のジャスティン・ビーバー(31)が“眼球バキバキTシャツ”披露でファン困惑 裁判決着の前後で「ヒゲを剃る」発言も
NEWSポストセブン