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ヤマト岩手支店長 何かやらねばと強く思い避難所に配送

 全国に69あるヤマト運輸の主管支店のうち、岩手全域を統括する主管支店長である暈(ひがさ)浩治氏は、勤務する岩手県北上市内で地震に遭遇した。遅めの昼食を終え、駐車場に出た時だった。

「まず、岩手県内の20人の支店長にメールで、業務を停止して安全な場所に避難するよう指示しました。そして私は、すぐに車で5分の会社に戻りました。次に頭に思い浮かんだのは、1秒でも早く現場に行って社員の安否確認をするとともに、自分の目で見て現状を把握することでした」

 社員の安全確保と現状把握は、上に立つ者としては基本的なことではある。しかし、「物流のプロフェッショナル」は、ここからが違った。

 沿岸部への道は、震災当日はすでに警察によって封鎖されており、翌12日も瓦礫にはばまれていた。惨状を目の当たりにしたのは13日だったという。これでは、被災者に必要な物資が届かない。

「とにかく、何かやらなければならないという思いが強くわきあがってきました。まずは社として救援物資を運ぶのが必要と考え、13日の時点で県庁に、救援物資を輸送するボランティアを行ないたいと申請しました」

 しかし、14日、15日になっても出動の要請はない。暈氏はやきもきしていた。県や市では、被害の大きさから、救援物資の分配ルートの確立に手間取っていたのだ。届けたくても、ガソリンは限られている。すべての避難所に県や市がそれぞれ車を向かわせるのは、困難な状況だった。

「そこで釜石市と打ち合わせをして避難所のリストをもらってきて、机の上に並べ、ドライバーたちと顔を突き合わせ、どうやって回るかを考えることにしました。すべての避難所をカバーできる形のルートを作るよう指示したところ、10台で効率よく回ることができるとわかりました」

 それを市に提案したところ、そのルートの通りになった。念頭にあったのは、同社の木川眞会長が常日頃説いている、「なさざるの罪」という言葉だったという。

「待っているだけではダメ。私たちはライフラインを担っているのだから、自分からアクションを起こさなければならないと強く感じました」

 この迅速な行動によって救われたのは、避難所の人々だけではない。やはり被災した社員たちにとっても、「業務への使命感」を生むことにつながり、心折れることなく復興へと向かう原動力となったようだ。

※SAPIO2011年5月25日号

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