国内

原発作業員の生殖機能・血液守る処置 保安院ら「必要ない」

 福島第一原発の記事が氾濫しているが、記者自身が「中に入って」書かれた記事はいまだない。そんななか、ライターの鈴木智彦氏が、第一原発で作業員として働きながらレポートする。

 * * *
 福島第一原発(1F)の現場では元々、誰一人として、政府が東電に作らせた事故収束までの工程表を守れると思っていない。協力企業の多くが「それぞれの会社の作業員が倍になって、奇跡的に毎日の天候が作業を阻まず、なんの事故もなく、すべてがスムースに運び、ようやくあの工程表が実現する」というのだから、間違いなく遅延するだろう。

 進まぬ作業に業を煮やした政府は、1Fに限り、年間被曝線量の上限を250ミリシーベルトに引き上げた。が、これは素人丸出しの危険な数値として、現場では嘲笑され、完全無視である。東電から実務を丸投げされている二次受けメーカーはそれぞれ、100ミリ、30ミリ、18ミリなどと異なる上限を再設定した。炉心周りに強いメーカーの上限が18ミリと圧倒的に低いのも、プロならではの正当なリスク回避が理由だろう。

 毎朝、緊急時対策本部が設けられている免震重要棟に集まってくる業者たちは、「やばいべ」「収まんねぇだろ」とささやきあっている。目下、火急の問題になっている高濃度汚染水がどのくらい高濃度かといえば、プールにたまっている水量を目視で確認するだけで、一瞬にして5~50ミリシーベルト被曝してしまうのだ。

 政府や東電は、水素爆発当時から比べ、かなり線量が下がったと喧伝するが、敷地内のあちこちに線量が突出して高いホットスポットがある。耳タコの“想定外”に繋がる因子はあちこちにあって、作業内容によっては予想外の事態が起き、1000ミリシーベルトの実効線量を浴びても不思議ではない。

 こうなれば急性障害が出て、最初に生殖機能を破壊され、次に骨髄機能がダメージを受ける可能性があるという。虎の門病院血液内科部長の谷口修一医師など、医療関係者たちが何度も自己造血幹細胞の採取と冷凍保存を呼びかけているのに、原子力安全・保安院や厚生労働省は、「必要ない」と繰り返している。

 私は近々、原発作業員としては初めて造血幹細胞の採取を行なうことになった。医師からのインフォームドコンセントの際、金額は10万円と決められた。本来なら40万円程度かかるが、谷口医師らの善意によって大幅にディスカウントされたのだ。

「本来、このコストは国や東電が支払うもので、個人の負担はゼロにしたい」と谷口医師はいう。

「最初にやられるのが生殖機能で、次が血液であることは間違いない。その他、どの臓器に障害が出ても、まずは他人の造血幹細胞を移植することから治療を始めるわけで、自分の造血幹細胞があれば拒否反応を抑える免疫抑制剤を使わずに済むのだから、採取しておくメリットは計り知れない」(同前)

 虎の門病院では造血幹細胞はもちろん、精子を冷凍保存する態勢も整えている。全国の病院と連携すれば、すべての作業員に対応できるという。これを大げさと考えるかどうか、いまのところすべては作業員の自己判断に委ねられている。最低、20代、30代の作業員は、子供を作る意思がなくとも、精子の冷凍保存をしておくべきだろうし、造血幹細胞も採取して欲しいと願う。

※週刊ポスト2011年6月10日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

イベントの“ドタキャン”が続いている米倉涼子
「押収されたブツを指さして撮影に応じ…」「ゲッソリと痩せて取り調べに通う日々」米倉涼子に“マトリがガサ入れ”報道、ドタキャン連発「空白の2か月」の真相
NEWSポストセブン
元従業員が、ガールズバーの”独特ルール”を明かした(左・飲食店紹介サイトより)
《大きい瞳で上目遣い…ガルバ写真入手》「『ブスでなにもできないくせに』と…」“美人ガルバ店員”田野和彩容疑者(21)の“陰湿イジメ”と”オラオラ営業
NEWSポストセブン
「ガールズメッセ2025」の式典に出席された秋篠宮家の次女・佳子さま(2025年10月19日、撮影/JMPA)
《“クッキリ”ドレスの次は…》佳子さま、ボディラインを強調しないワンピも切り替えでスタイルアップ&フェミニンな印象に
NEWSポストセブン
結婚へと大きく前進していることが明らかになった堂本光一
《堂本光一と結婚秒読み》女優・佐藤めぐみが芸能界「完全引退」は二宮和也のケースと酷似…ファンが察知していた“予兆”
NEWSポストセブン
売春防止法違反(管理売春)の疑いで逮捕された池袋のガールズバーに勤める田野和彩容疑者(21)
《GPS持たせ3か月で400人と売春強要》「店ナンバーワンのモテ店員だった」美人マネージャー・田野和彩容疑者と鬼畜店長・鈴木麻央耶容疑者の正体
NEWSポストセブン
日本サッカー協会の影山雅永元技術委員長が飛行機でわいせつな画像を見ていたとして現地で拘束された(共同通信)
「脚を広げた女性の画像など1621枚」機内で児童ポルノ閲覧で有罪判決…日本サッカー協会・影山雅永元技術委員長に現地で「日本人はやっぱロリコンか」の声
NEWSポストセブン
三笠宮家を継ぐことが決まった彬子さま(写真/共同通信社)
三笠宮家の新当主、彬子さまがエッセイで匂わせた母・信子さまとの“距離感” 公の場では顔も合わさず、言葉を交わす場面も目撃されていない母娘関係
週刊ポスト
タンザニアで女子学生が誘拐され焼死体となって見つかった事件が発生した(時事通信フォト)
「身代金目的で女子大生の拷問動画を父親に送りつけて殺害…」タンザニアで“金銭目的”“女性を狙った暴力事件”が頻発《アフリカ諸国の社会問題とは》
NEWSポストセブン
鮮やかなロイヤルブルーのワンピースで登場された佳子さま(写真/共同通信社)
佳子さま、国スポ閉会式での「クッキリ服」 皇室のドレスコードでは、どう位置づけられるのか? 皇室解説者は「ご自身がお考えになって選ばれたと思います」と分析
週刊ポスト
Aさんの左手に彫られたタトゥー。
《10歳女児の身体中に刺青が…》「14歳の女子中学生に彫られた」ある児童養護施設で起きた“子供同士のトラブル” 職員は気づかず2ヶ月放置か
NEWSポストセブン
知床半島でヒグマが大量出没(時事通信フォト)
《現地ルポ》知床半島でヒグマを駆除するレンジャーたちが見た「壮絶現場」 市街地各所に大量出没、1年に185頭を処分…「人間の世界がクマに制圧されかけている」
週刊ポスト
お騒がせインフルエンサーのボニー・ブルー(インスタグラムより)
「バスの車体が不自然に揺れ続ける」“タダで行為できます”金髪美女インフルエンサー(26)が乱倫バスツアーにかけた巨額の費用「価値は十分あった」
NEWSポストセブン