ライフ

伊集院静が7年間に及ぶ無賃ホテル生活を記した自伝的随想録

【書評】『なぎさホテル』(伊集院静/小学館/1470円)

 * * *
〈夢のような時間〉。本当に夢だったとしてもおかしくない日々を、作家・伊集院静氏はかつて逗子にあった『なぎさホテル』で過ごした。同書の著者・伊集院氏自身が語る。

「見ず知らずの青年を出世払いでいいといって7年も泊めるなんて、普通はありえないよね。しかも当時の自分は無茶もやっていてね。方々で金は借りまくるわ酒は飲むわの生活。喧嘩や危ない仕事をわざわざやって、死んだら死んだで構わないと自棄になってもいた。

 そんな金も居場所もない、真っ直ぐなだけの男を彼らが受け容れてくれたことは、今でも自分の一部になっている。この薄汚れた私にも純粋さゆえに悩んだ時代があったんです(笑い)」

 それは伊集院氏にとって本を最も読んだ時間であり、〈M子〉こと今は亡き夏目雅子・前夫人と結婚までを過ごした7年間でもあった。先の見えない不安と焦燥を抱えて、しばし羽を休めた場所――そんな優しいホテルと人々の物語である。

 写真・宮澤正明氏、音楽・井上陽水氏による電子書籍版が先行発売されてもいる本作では、同ホテルのありし日の姿を収めた秘蔵写真も多数掲載。うっとりするほど優雅に佇むそこが『なぎさホテル』であったこと――それこそが作家が書くに値する奇蹟なのかもしれない。

※週刊ポスト2011年7月29日号

関連記事

トピックス

水原一平氏のSNS周りでは1人の少女に注目が集まる(時事通信フォト)
水原一平氏とインフルエンサー少女 “副業のアンバサダー”が「ベンチ入り」「大谷翔平のホームランボールをゲット」の謎、SNS投稿は削除済
週刊ポスト
解散を発表した尼神インター(時事通信フォト)
《尼神インター解散の背景》「時間の問題だった」20キロ減ダイエットで“美容”に心酔の誠子、お笑いに熱心な渚との“埋まらなかった溝”
NEWSポストセブン
水原一平氏はカモにされていたとも(写真/共同通信社)
《胴元にとってカモだった水原一平氏》違法賭博問題、大谷翔平への懸念は「偽証」の罪に問われるケース“最高で5年の連邦刑務所行き”
女性セブン
富田靖子
富田靖子、ダンサー夫との離婚を発表 3年も隠していた背景にあったのは「母親役のイメージ」影響への不安か
女性セブン
尊富士
新入幕優勝・尊富士の伊勢ヶ濱部屋に元横綱・白鵬が転籍 照ノ富士との因縁ほか複雑すぎる人間関係トラブルの懸念
週刊ポスト
《愛子さま、単身で初の伊勢訪問》三重と奈良で訪れた2日間の足跡をたどる
《愛子さま、単身で初の伊勢訪問》三重と奈良で訪れた2日間の足跡をたどる
女性セブン
水原一平氏と大谷翔平(時事通信フォト)
「学歴詐称」疑惑、「怪しげな副業」情報も浮上…違法賭博の水原一平氏“ウソと流浪の経歴” 現在は「妻と一緒に姿を消した」
女性セブン
『志村けんのだいじょうぶだぁ』に出演していた松本典子(左・オフィシャルHPより)、志村けん(右・時事通信フォト)
《松本典子が芸能界復帰》志村けんさんへの感謝と後悔を語る “変顔コント”でファン離れも「あのとき断っていたらアイドルも続いていなかった」
NEWSポストセブン
水原氏の騒動発覚直前のタイミングの大谷と結婚相手・真美子さんの姿をキャッチ
【発覚直前の姿】結婚相手・真美子さんは大谷翔平のもとに駆け寄って…水原一平氏解雇騒動前、大谷夫妻の神対応
NEWSポストセブン
違法賭博に関与したと報じられた水原一平氏
《大谷翔平が声明》水原一平氏「ギリギリの生活」で模索していた“ドッグフードビジネス” 現在は紹介文を変更
NEWSポストセブン
カンニング竹山、前を向くきっかけとなった木梨憲武の助言「すべてを遊べ、仕事も遊びにするんだ」
カンニング竹山、前を向くきっかけとなった木梨憲武の助言「すべてを遊べ、仕事も遊びにするんだ」
女性セブン
大ヒットしたスラムダンク劇場版。10-FEET(左からKOUICHI、TAKUMA、NAOKI)の「第ゼロ感」も知らない人はいないほど大ヒット
《緊迫の紅白歌合戦》スラダン主題歌『10-FEET』の「中指を立てるパフォーマンス」にNHKが“絶対にするなよ”と念押しの理由
NEWSポストセブン