国際情報

ゴーン氏 タイでマーチ生産指示、ドライな決断は日本人は無理

 東日本大震災に苛まれて、一時は日本の自動車産業全体に急ブレーキがかかった。だが、徐々回復基調が鮮明になりつつある。その中でも、反転攻勢いちじるしいのがカルロス・ゴーン社長率いる日産自動車だ。経営コンサルタントの大前研一氏がその強さの秘密を分析する。

 * * *
 日産は日本でホンダと2位を争い、アメリカでもヨーロッパ勢に比べれば強い。世界的にもトヨタが低迷する中で伸びている。中国をはじめとする新興国や途上国で躍進しているからだ。これは良い意味で日本人の神経を持っていないゴーン社長のお陰だと思う。
 
 日本人の経営陣は、新興国や途上国に突っ込んでいくのはリスクが高いという発想になって腰が引けてしまう。しかし、ブラジル生まれでレバノン育ちのゴーン社長には、そういう恐れはないようだ。それどころか彼のグローバルな視点から見れば、未知の市場はリスクではなくチャンスと映るのだろう。だから新興国や途上国に積極果敢に進出する世界戦略を展開しているのだと思う。
 
 たとえばコンパクトカー「マーチ」は、今やすべてタイ製だ。内外に強力なライバルが多いマーチは価格を上げられないため、人件費が高い日本で生産していたらコスト競争力がなくなる。したがってゴーン社長は、タイで日本と同じ品質の商品が生産できるようになったら、さっさと日本の工場を閉め、日本市場向けもタイからの「逆輸入」にして、100万円切りの低価格を実現したのである。
 
 これほどドライな決断は、日本人の経営陣だと、そう簡単にできるものではない。そこがBRICs(Brazil,Russia,India,China)で大きく出遅れたトヨタとの違いであり、東日本大震災後に下がった株価が日産は回復しているのにトヨタは回復していないという株式市場の評価にもつながっている。
 
「世界の最適地で作って最も有力なマーケットに届ける」ことがボーダレスワールドにおけるグローバル化の鉄則だ。そう私は1989年から口を酸っぱくして言ってきたが、まさにゴーン社長はそれを実践しているわけだ。

※SAPIO2011年8月17日・24日号

関連記事

トピックス

鳥取県を訪問された佳子さま(2025年9月13日、撮影/JMPA)
佳子さま、鳥取県ご訪問でピンクコーデをご披露 2000円の「七宝焼イヤリング」からうかがえる“お気持ち”
NEWSポストセブン
世界的アスリートを狙った強盗事件が相次いでいる(時事通信フォト)
《イチロー氏も自宅侵入被害、弓子夫人が危機一髪》妻の真美子さんを強盗から守りたい…「自宅で撮った写真」に見える大谷翔平の“徹底的な”SNS危機管理と自宅警備体制
NEWSポストセブン
長崎県へ訪問された天皇ご一家(2025年9月12日、撮影/JMPA)
《長崎ご訪問》雅子さまと愛子さまの“母娘リンクコーデ” パイピングジャケットやペールブルーのセットアップに共通点もおふたりが見せた着こなしの“違い”
NEWSポストセブン
永野芽郁のマネージャーが電撃退社していた
《坂口健太郎との熱愛過去》25歳の永野芽郁が男性の共演者を“お兄ちゃん”と呼んできたリアルな事情
NEWSポストセブン
ウクライナ出身の女性イリーナ・ザルツカさん(23)がナイフで切りつけられて亡くなった(Instagramより)
《監視カメラが捉えた残忍な犯行》「刺された後、手で顔を覆い倒れた」戦火から逃れたウクライナ女性(23)米・無差別刺殺事件、トランプ大統領は「死刑以外の選択肢はない」
NEWSポストセブン
国民に笑いを届け続けた稀代のコント師・志村けんさん(共同通信)
《恋人との密会や空き巣被害も》「売物件」となった志村けんさんの3億円豪邸…高級時計や指輪、トロフィーは無造作に置かれていたのに「金庫にあった大切なモノ」
NEWSポストセブン
愛子さまが佳子さまから学ぶ“ファッション哲学”とは(時事通信フォト)
《淡いピンクがイメージカラー》「オシャレになった」「洗練されていく」と評判の愛子さま、佳子さまから学ぶ“ファッション哲学”
NEWSポストセブン
年下の新恋人ができたという女優の遠野なぎこ
《部屋のカーテンはそのまま》女優・遠野なぎこさん急死から2カ月、生前愛用していた携帯電話に連絡すると…「ポストに届き続ける郵便物」自宅マンションの現在
NEWSポストセブン
背中にびっしりとタトゥーが施された犬が中国で物議に(FB,REDより)
《犬の背中にびっしりと龍のタトゥー》中国で“タトゥー犬”が大炎上、飼い主は「麻酔なしで彫った」「こいつは痛みを感じないんだよ」と豪語
NEWSポストセブン
(インスタグラムより)
《“1日で100人と寝る”チャレンジで物議》イギリス人インフルエンサー女性(24)の両親が現地メディアで涙の激白「育て方を間違ったんじゃないか」
NEWSポストセブン
藤澤五月さん(時事通信フォト)
《五輪出場消滅したロコ・ソラーレの今後》藤澤五月は「次のことをゆっくり考える」ライフステージが変化…メンバーに突きつけられた4年後への高いハードル
NEWSポストセブン
石橋貴明、現在の様子
《白髪姿の石橋貴明》「元気で、笑っていてくれさえすれば…」沈黙する元妻・鈴木保奈美がSNSに記していた“家族への本心”と“背負う繋がり”
NEWSポストセブン