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福島第一原発5、6号機いつでも再稼働可能と東電協力会社幹部

 史上最悪の事故を起こした福島第一原発は「廃炉」にするのが当然――世間では、そう思われている。しかし、現場で進められている作業を詳細に検証すると、表向きの発表からはわからない、隠された“意図”が姿を露わにする。ジャーナリストの伊藤博敏氏がレポートする。

 * * *
 福島第一原発には6基の原発があるが、連日のように報道される1~4号機に比べると、5、6号機の動静はほとんど伝えられない。

 地震発生時に5、6号機は定期検査中。しかも、午後3時35分に到達した高さ15mの津波によって、1~4号機の全交流電源が喪失したのに対し、5、6号機は1台の非常用ディーゼル発電機が運転を継続、10日後には外部電源に切り替えられ、以降、原子炉内の温度が100度以下になる「冷温停止」が続いている。

 衛星写真で見ればよくわかるが、5、6号機は双葉町にあり、南にある大熊町の1~4号機とは少し離れている。この若干の距離感に「冷温停止」の安心感が、5、6号機の存在を忘れさせる。だが、東京電力はこの2基を、1~4号機と違って今も貴重な「資産」として考えているようなのだ。

 東電協力会社幹部が、事もなげに言う。

「メンテナンスは終わっており、5、6号機はいつでも再稼働できる準備が整っています。津波対策にも乗り出しており、消波ブロックを現在、積み上げている。25tのものを4000個と聞いていますが、最終的には1万個ぐらいになるでしょう」

 再稼働? 驚きの証言である。

 既に、1~4号機については廃炉が決まっている。原子炉建屋が吹き飛び、原形をとどめないほど大破、原子炉格納容器がむき出しになった3号機を始め、4基の原発は、これから数十年の歳月と1基5000億円ともされる費用をかけて、処分されていく。

 その隣で、運転再開など「世間の常識」ではありえない。有識者による「福島県復興ビジョン検討委員会」は、事故を起こした第一原発にとどまらず、第二原発の廃炉も求める方針を打ち出している。そうした情勢を踏まえ、佐藤雄平知事は6月末の県議会で「原子力に依存しない社会を目指す」と、再稼働を否定した。

 だが、東電は原子力政策の継続を信じて疑っていないようだ。その証拠に、1~4号機の津波対策以上の熱心さで5、6号機に取り組んでいるように見える。しかも、細大漏らさず情報を公開している、と言いつつ「聞かれたこと以外は答えない」という姿勢は事故以前から変わっていない。これから詳述する5、6号機の大規模な防波堤工事は、私が今回問い合わせるまで伏せられていたのである。

 東電は、津波の最高水位を5.7mと想定、それに備えて防波堤を築いていたが、襲ったのは15mの大津波。防波堤をなぎ倒し、高さ10mの敷地に立つ1~4号機のタービン建屋を襲い、海水に浸した。

 これによりタービン建屋内の電源系が機能喪失した。余震による再度の津波を怖れた東電は、5月中旬から網や籠に石を充填し、それを積み上げる仮設防潮堤の設置に着手、6月末に完成した。

 東電は公開仮設防潮堤の写真を公開しているが、3号機のタービン建屋から集中廃棄物処理施設に至る長さ362m、海面からの高さは14mのもので、マグニチュード8程度の地震で想定される高さ7~8mの津波を防ぐことができるという。

 一方、5、6号機の敷地の高さは13mと1~4号機より高い。それが、損害が軽微だったひとつの要因だが、津波で防波堤が破壊され、無防備な状態であるのは1~4号機と変わらない。

 そこで、5、6号機では防波堤そのものの補修工事に入った。福島第二原発と女川原発で重さ25tの消波ブロックを製造、運搬船で運び、クレーンで吊り上げ、構造計算のうえで積んでいく。現地の写真を見比べると、「冷温停止」しているはずの5、6号機の工事のほうが手厚いように見える。

 それについては、地形の差による違いだとする指摘もあるが、少なくとも、どちらの工事も同じマグニチュード8クラスを想定した津波対策である。それを片方は発表し、5、6号機については発表しなかったのは、「再稼働への備え」と指摘されることを嫌ったからだと考えられないか。

 東電は、「工程表」に基づき、原子炉循環系の確保、海洋汚染防止のための遮蔽壁の設置、余震、津波対策などを同時並行で進め、そこには5、6号機向けの防波堤補修など再稼働へ向けた準備も含まれる。

「再稼働」について、東電広報部はこう説明する。

「発表はしていませんが、防波堤補修のために、消波ブロックの積み上げ工事を、9月末までをめどに行なっているのは事実です。1万個? いや、約3000個と聞いています。再稼働については、国や地域のご理解をいただきながら進めるもので、今、申し上げる段階ではありません。また、5、6号機も福島第二も大切な経営資源という認識です」

 人も組織も簡単には変われない。原発は今も東電にとって推進すべきものだし、ある程度は情報や資料を公開しているものの、「知らしむべからず」の基本姿勢に変わりはない。その「ブレない東電」に政治がブレずに対応できるのか。電力行政に関する「ポスト菅」の役割は大きい。

※SAPIO2011年9月14日号

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