ライフ

平成版『ひめゆりの塔』 中村獅童が叩き上げ兵隊のよさ見せる

 浅田次郎原作、佐々部清監督の映画『日輪の遺産』は平成版『ひめゆりの塔』と呼びたい力作。戦争に殉じていった少女たちの「純真」を描いている。作家の川本三郎氏が評する。

 * * *
「ひめゆりの塔」は実話だったがこちらはあくまでもフィクション。現代のある女学校に戦争で亡くなった女学生たちの追悼碑が建てられている。碑には彼女たちは空襲の犠牲になったと記されている。

 しかし、実はそうではなかったと、生き残った老女性(八千草薫)が、隠された戦争秘話を孫娘(麻生久美子)に語り始める。

 昭和二十年。敗色濃い戦争末期、三人の軍人に、厖大な財宝を秘匿せよという秘密の命令が下る。リーダーは堺雅人演じる少佐。

 日本軍がフィリピンに進攻した時に「マッカーサーの財宝」と呼ばれるものを奪い、本土に運んだ。軍の一部の上層部しか知らない。敗北が明らかになったいま、戦後の復興に役立たせるためにこの財宝をアメリカ占領軍から隠すことが急務になる。

 この財宝秘匿の秘密の作業に二十人の女学生がひそかに動員される。無論、彼女たちには作業の内容は知らされていない。

 力仕事である。それになぜ少女たちが駆り出されたのか。彼女たちが「純真」だったから。いわゆる軍国少女で国のために働くことに喜びと誇りを感じている。あくまでも任務に忠実で軍人の命令に素直に従う。いわば軍人から見れば使いやすい。

 実際、彼女たちはよく働く。お互いに励まし合い、助け合う。その結果、財宝を入れた重い箱をいくつも、鉄道の小駅から山のなかの洞窟に運び込む作業は無事に終了する。

 しかし、終戦を控え、少佐のもとに残酷な命令が下される。秘密保持のために少女たち全員を殺すようにと。

 物語はここで一気に緊張を増す。軍人としては当然、上官の命令には従わなければならない。しかし、人間としてけなげな少女たちを殺すことは出来ない。

 少佐をはじめ三人の軍人の葛藤が始まる。三人のなかでもいちばん位の低い軍曹は、現場で少女たちと苦労を共にしただけになんとか少女たちを救おうとする思いが強い。演じている中村獅童が叩き上げの兵隊のよさを見せる。

 少佐の努力でなんとか命令回避に至った時、思わぬ悲劇が待っている。少女たちが「純真」であるゆえの悲劇が。フィクションだが、あの時代、決してあり得なかった話ではない。

 軍国少女を演じる現代の少女俳優たちもけなげさを出している。

※SAPIO 2011年9月14日号

関連記事

トピックス

まだ重要な問題が残されている(中居正広氏/時事通信フォト)
中居正広氏と被害女性Aさんの“事案後のメール”に「フジ幹部B氏」が繰り返し登場する動かぬ証拠 「業務の延長線上」だったのか、残された最後の問題
週刊ポスト
生徒のスマホ使用を注意しても……(写真提供/イメージマート)
《教員の性犯罪事件続発》過去に教員による盗撮事件あった高校で「教員への態度が明らかに変わった」 スマホ使用の注意に生徒から「先生、盗撮しないで」
NEWSポストセブン
(写真/イメージマート)
《ロマンス詐欺だけじゃない》減らない“セレブ詐欺”、ターゲットは独り身の年配男性 セレブ女性と会って“いい思い”をして5万円もらえるが…性的欲求を利用した驚くべき手口 
NEWSポストセブン
遠野なぎこ(本人のインスタグラムより)
《ブログが主な収入源…》女優・遠野なぎこ、レギュラー番組“全滅”で悩んでいた「金銭苦」、1週間前に公表した「診断結果」「薬の処方」
NEWSポストセブン
京都祇園で横行するYouTuberによる“ビジネス”とは(左/YouTubeより、右/時事通信フォト)
《芸舞妓を自宅前までつきまとって動画を回して…》京都祇園で横行するYouTuberによる“ビジネス”「防犯ブザーを携帯する人も」複数の被害報告
NEWSポストセブン
由莉は愛子さまの自然体の笑顔を引き出していた(2021年11月、東京・千代田区/宮内庁提供)
愛子さま、愛犬「由莉」との別れ 7才から連れ添った“妹のような存在は登校困難時の良きサポート役、セラピー犬として小児病棟でも活動
女性セブン
インフルエンサーのアニー・ナイト(Instagramより)
海外の20代女性インフルエンサー「6時間で583人の男性と関係を持つ」企画で8600万円ゲット…ついに夢のマイホームを購入
NEWSポストセブン
ホストクラブや風俗店、飲食店のネオン看板がひしめく新宿歌舞伎町(イメージ、時事通信フォト)
《「歌舞伎町弁護士」のもとにやって来た相談者は「女風」のセラピスト》3か月でホストを諦めた男性に声を掛けた「紫色の靴を履いた男」
NEWSポストセブン
『帰れマンデー presents 全国大衆食堂グランプリ 豪華2時間SP』が月曜ではなく日曜に放送される(番組公式HPより)
番組表に異変?『帰れマンデー』『どうなの会』『バス旅』…曜日をまたいで“越境放送”が相次ぐ背景 
NEWSポストセブン
遠野なぎこ(本人のインスタグラムより)
《自宅から遺体見つかる》遠野なぎこ、近隣住民が明かす「部屋からなんとも言えない臭いが…」ヘルパーの訪問がきっかけで発見
NEWSポストセブン
2014年に結婚した2人(左・時事通信フォト)
《仲間由紀恵「妊活中の不倫報道」乗り越えた8年》双子の母となった妻の手料理に夫・田中哲司は“幸せ太り”、「子どもたちがうるさくてすみません」の家族旅行
NEWSポストセブン
詐称疑惑の渦中にある静岡県伊東市の田久保眞紀市長(左/Xより)
《大学時代は自由奔放》学歴詐称疑惑の田久保市長、地元住民が語る素顔「裏表がなくて、ひょうきんな方」「お母さんは『自由気ままな放蕩娘』と…」
NEWSポストセブン