ライフ

孫正義氏 この世に生まれなかったかもしれぬ2つの危機あった

1月12日に発売される『あんぽん 孫正義伝』(小学館刊)。著者の佐野眞一氏は、同書のなかで、孫正義氏の出生と、もしかしたら産まれなかった可能性について、同書の中で以下のように紹介している。(文中敬称略)

* * *
『焼肉仁』の経営者・大竹仁鉄によれば、もしかすると、孫家には孫正義がこの世に生まれなかったかもしれない危機が二つあったという。

大竹はそう前置きして、孫家の知られざる家の履歴書を語り出した。

「これはうちの母(清子、孫鍾慶(正義の祖父)の次女、三憲(孫正義の父)の姉)から聞いたんですが、孫鍾慶さんは、戦争が終わって故郷の大邱市郊外に一度帰ったそうです。そのとき孫鍾慶さんに同行したのが、母の清子と中学一、二年生だった三憲さんでした。

ところが帰ったものの、故郷は田畑も荒れ、みんな貧しい生活をしていた。孫鍾慶さんたちが故郷で小さい商いを始めたときも、親類からものすごい嫌がらせをされたそうです。『うちの一族は商売なんかする家柄じゃない』ってね。孫家は先祖が武人だったり学者だったりという家柄だから、商売なんてやるのはとんでもない、という感覚だったらしい。

それで『これでは日本に帰った方がましだ』と思い、再び日本に帰ることにした。といっても、密航です。やはり日本から引き揚げたものの、故郷の荒廃を見て日本に戻る人たちがいた。その人たちと一緒になけなしの金を集めて、ぼろい漁船を調達したそうです」

一行は見つからないよう夜のうちに出港して、博多を目指した。ところが、その漁船が想像以上のオンボロ船だったらしく、途中で浸水してきた。このままでは本当に沈みかねない。

「母の話では、そのとき三憲さんは、『だから、オレは日本になんか帰りたくなかったんだ』と大泣きしたといいます。後にも先にも三憲さんが、それほど我を忘れて泣きわめいたのは、そのときだけだったそうです」

仕方なく船は針路をかえ、韓国に戻った。だが、密航船だから大声で助けを呼べない。そこで知恵者が「私たちは日本から渡ってきました」とウソをついて、何とか救出してもらうことができた。

孫鍾慶らは、その後、別の船で博多の志賀島に無事上陸した。博多でしばらく過ごした一行は、知人に誘われて鳥栖に行き、駅前の朝鮮部落にやっと居を定めることができた。

「もし、日本に向かう密航船が沈没していたら、孫正義も生まれていなかったし、ソフトバンクも存在しなかった。もちろん私も生まれていませんでした(笑)」

二つ目の危機は現在も続く問題である。

「私は小さい頃、飯塚に住んでいたんですが、近所の貧しい朝鮮人一家が、急に夢でも見たような、幸せそうな表情になったんです。その家族は、それから二、三日後に、町から忽然と消えました」

彼らは、「北朝鮮はこの世の天国」という総連の帰還事業の口車に乗せられて、北朝鮮に渡っていった家族だった。

「あの一家はいまどうしているのか。それを考えると、孫鍾慶さん一家が総連の口車に乗らなかったことだけは、本当によかったと思うんです」

(『あんぽん 孫正義伝』より抜粋)

関連キーワード

関連記事

トピックス

11月24日0時半ごろ、東京都足立区梅島の国道でひき逃げ事故が発生した(右/読者提供)
【足立区11人死傷】「ドーンという音で3メートル吹き飛んだ」“ブレーキ痕なき事故”の生々しい目撃談、28歳被害女性は「とても、とても親切な人だった」と同居人語る
NEWSポストセブン
愛子さま(写真/共同通信社)
《中国とASEAN諸国との関係に楔を打つ第一歩》愛子さま、初の海外公務「ラオス訪問」に秘められていた外交戦略
週刊ポスト
グラビア界の「きれいなお姉さん」として確固たる地位を固めた斉藤里奈
「グラビアに抵抗あり」でも初挑戦で「現場の熱量に驚愕」 元ミスマガ・斉藤里奈が努力でつかんだ「声のお仕事」
NEWSポストセブン
「アスレジャー」の服装でディズニーワールドを訪れた女性が物議に(時事通信フォト、TikTokより)
《米・ディズニーではトラブルに》公共の場で“タイトなレギンス”を普段使いする女性に賛否…“なぜ局部の形が丸見えな服を着るのか” 米セレブを中心にトレンド化する「アスレジャー」とは
NEWSポストセブン
日本体育大学は2026年正月2日・3日に78年連続78回目の箱根駅伝を走る(写真は2025年正月の復路ゴール。撮影/黒石あみ<小学館>)
箱根駅伝「78年連続」本戦出場を決めた日体大の“黄金期”を支えた名ランナー「大塚正美伝説」〈1〉「ちくしょう」と思った8区の区間記録は15年間破られなかった
週刊ポスト
「高市答弁」に関する大新聞の報じ方に疑問の声が噴出(時事通信フォト)
《消された「認定なら武力行使も」の文字》朝日新聞が高市首相答弁報道を“しれっと修正”疑惑 日中問題の火種になっても訂正記事を出さない姿勢に疑問噴出
週刊ポスト
地元コーヒーイベントで伊東市前市長・田久保真紀氏は何をしていたのか(時事通信フォト)
《シークレットゲストとして登場》伊東市前市長・田久保真紀氏、市長選出馬表明直後に地元コーヒーイベントで「田久保まきオリジナルブレンド」を“手売り”の思惑
週刊ポスト
ラオスへの公式訪問を終えた愛子さま(2025年11月、ラオス。撮影/横田紋子)
《愛子さまがラオスを訪問》熱心なご準備の成果が発揮された、国家主席への“とっさの回答” 自然体で飾らぬ姿は現地の人々の感動を呼んだ 
女性セブン
26日午後、香港の高層集合住宅で火災が発生した(時事通信フォト)
《日本のタワマンは大丈夫か?》香港・高層マンション大規模火災で80人超が死亡、住民からあがっていた「タバコの不始末」懸念する声【日本での発生リスクを専門家が解説】
NEWSポストセブン
山上徹也被告(共同通信社)
「金の無心をする時にのみ連絡」「断ると腕にしがみついて…」山上徹也被告の妹が証言した“母へのリアルな感情”と“家庭への絶望”【安倍元首相銃撃事件・公判】
NEWSポストセブン
被害者の女性と”関係のもつれ”があったのか...
《赤坂ライブハウス殺人未遂》「長男としてのプレッシャーもあったのかも」陸上自衛官・大津陽一郎容疑者の “恵まれた生育環境”、不倫が信じられない「家族仲のよさ」
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! 習近平をつけ上がらせた「12人の媚中政治家」ほか
「週刊ポスト」本日発売! 習近平をつけ上がらせた「12人の媚中政治家」ほか
NEWSポストセブン