ライフ

ミッキー・カーチスは「五十嵐信次郎」ほか名前が計8つある

【書評】『おれと戦争と音楽と』(ミッキー・カーチス 著/亜紀書房/1890円)

【評者】嵐山光三郎(作家)

* * *
せんだって、ミッキー・カーチスに五十嵐信次郎という名刺を渡され「これはオレが中学三年のころ作った名前だよ。全部漢字にした」という。ミッキーといえばロカビリーである。一九五八年の日劇ウエスタン・カーニバルに山下敬二郎、平尾昌晃とともにロカビリー三人男として登場し、爆発的人気を得た。

その後映画に出演し、バンドを結成してヨーロッパへ渡り、六十歳で還暦記念「KANREKIロック」を歌った。天晴れな不良ジジイである。立川談志の弟子で、亭号はミッキー亭カーチス。落語がべらぼうにうまく、英語をしゃべる変な外人が出てくる。ハーモニカの達人である。ミッキーの高座は爆笑爆笑大爆笑となり、ハーモニカが胸にしみる。

ミッキーの両親とも日本人とイギリス人のハーフで、本名はマイケル・ブライアン・カーチス。日本国籍名は加千須ブライアン。作詞家名は川路美樹。全部で八つの名前がある。

東京の赤坂に日本人として生まれたが、戦争が始まり「顔が非国民だ」といわれ、四歳のとき日本軍が占領した上海へ渡り、上海でも「敵性国人」と呼ばれて、石を投げられていじめられた。

日本の敗戦後はアメリカの貨物船に乗せられて引き揚げ、東京のオンボロ八畳間にころがりこみ、ニセの証明書を使ったので、食料の配給がなかった。菊や雑草を茹でて食べ、「さまよう無国籍一家」として漂流した。

ロカビリーのスターとして登場する前に、疾風怒濤の少年時代があったのだ。戦争と音楽がミッキー・カーチスという人格を作った。これは、ミッキー個人の自伝でありつつ、日本戦争史として貴重な価値がある一冊となった。

ミッキーは語り口がうまい。悲惨苛酷な体験も、ミッキーが書くと、楽しい少年時代に思えてしまう。それは落語家として、談志に認められたほどの話芸によるものだ。面白くて、読んでいて笑ってしまう。ミッキーは、七十三歳で、さらに進化しつづける。

※週刊ポスト2012年2月10日号

関連記事

トピックス

WSで遠征観戦を“解禁”した真美子さん
《真美子さんが“遠出解禁”で大ブーイングのトロントへ》大谷翔平が球場で大切にする「リラックスできるルーティン」…アウェーでも愛娘を託せる“絶対的味方”の存在
NEWSポストセブン
ベラルーシ出身で20代のフリーモデル 、ベラ・クラフツォワさんが詐欺グループに拉致され殺害される事件が起きた(Instagramより)
「モデル契約と騙され、臓器を切り取られ…」「遺体に巨額の身代金を要求」タイ渡航のベラルーシ20代女性殺害、偽オファーで巨大詐欺グループの“奴隷”に
NEWSポストセブン
高校時代には映画誌のを毎月愛読していたという菊川怜
【15年ぶりに映画主演の菊川怜】三児の子育てと芸能活動の両立に「大人になると弱音を吐く場所がないですよね」と心境吐露 菊川流「自分を励ます方法」明かす
週刊ポスト
ツキノワグマは「人間を恐がる」と言われてきたが……(写真提供/イメージマート)
《全国で被害多発》”臆病だった”ツキノワグマが変わった 出没する地域の住民「こっちを食いたそうにみてたな、獲物って目で見んだ」
NEWSポストセブン
2020年に引退した元プロレスラーの中西学さん
《病気とかじゃないですよ》現役当時から体重45キロ減、中西学さんが明かした激ヤセの理由「今も痺れるときはあります」頚椎損傷の大ケガから14年の後悔
NEWSポストセブン
政界の”オシャレ番長”・麻生太郎氏(時事通信フォト)
「曲がった口角に合わせてネクタイもずらす」政界のおしゃれ番長・麻生太郎のファッションに隠された“知られざる工夫” 《米紙では“ギャングスタイル”とも》
NEWSポストセブン
イギリス出身のボニー・ブルー(本人のインスタグラムより)
《ビザ取り消し騒動も》イギリス出身の金髪美女インフルエンサー(26)が次に狙うオーストラリアでの“最もクレイジーな乱倫パーティー”
NEWSポストセブン
東京都慰霊堂を初めて訪問された天皇皇后両陛下と長女・愛子さま(2025年10月23日、撮影/JMPA)
《母娘の追悼ファッション》皇后雅子さまは“縦ライン”を意識したコーデ、愛子さまは丸みのあるアイテムでフェミニンに
NEWSポストセブン
将棋界で「中年の星」と呼ばれた棋士・青野照市九段
「その日一日負けが込んでも、最後の一局は必ず勝て」将棋の世界で50年生きた“中年の星”青野照市九段が語る「負け続けない人の思考法」
NEWSポストセブン
2023年に結婚を発表したきゃりーぱみゅぱみゅと葉山奨之
「傍聴席にピンク髪に“だる着”姿で現れて…」きゃりーぱみゅぱみゅ(32)が法廷で見せていた“ファッションモンスター”としての気遣い
NEWSポストセブン
女優の趣里とBE:FIRSTのメンバーRYOKI(右/インスタグラムより)
《趣里が待つ自宅に帰れない…》三山凌輝が「ネトフリ」出演で超大物らと長期ロケ「なぜこんなにいい役を?」の声も温かい眼差しで見守る水谷豊
NEWSポストセブン
松田聖子のモノマネ第一人者・Seiko
《ステージ4の大腸がんで余命3か月宣告》松田聖子のものまねタレント・Seikoが明かした“がん治療の苦しみ”と“生きる希望” 感激した本家からの「言葉」
NEWSポストセブン