国内

東日本大震災の弔慰金 公務員は2660万円、民間は800万円

死者・行方不明者合わせて約2万人を数えた東日本大震災。失われた命の価値に差があるはずがない。しかし、現実はどうか。肩書きの有無で、「命の値段」が何倍も違うのだ。そこには日本社会の歪な構造が垣間見える。

大震災から間もなく1年。東北の被災住民は、悲しみを乗り越えて新たな生活をスタートさせている。

宮城県の沿岸都市で商店主の夫を失った30代のA子さんは、幼い息子とともに被災地を離れ、関東地方の実家に身を寄せている。

「私と子供を高台に避難させた後、夫は津波に呑まれました。でも、いつまでも悲しんではいられない。この子を育てていくためにも、生活を立て直さないと……」

そういって、もうすぐ小学校に入る子供に微笑みかけた。「市役所でもらった災害弔慰金や義捐金を当面の生活費に充てていますが、子供が学校に入ったら、私が働くつもりです」と力強く語った。

新たな生活を踏み出す被災者、とりわけA子さんのように一家の大黒柱を失った遺族にとって最大の悩みは、今後の生活資金をどう捻出するかである。

震災犠牲者遺族に対して支払われる弔慰金は、「災害救助法」に基づいて定められている。その金額は死亡者が世帯主なら500万円、被世帯主なら250万円。全国から集まった義捐金の配分額が110万円(宮城県)であることを考えれば、弔慰金は新生活の命綱といっても過言ではない。

しかし、実際に受け取る公的な弔慰金は、死亡者の「職業」によって数倍の違いがある。そのことを伝えると、A子さんは「えっ……」としばし絶句した。

「私と同じ悲しみを抱える方に“ずるい”とはいえません。でも、同じ被災者なのに、何で……」

法律に基づく弔慰金は、前述したように一律である。国が50%、県が25%、市が25%を負担し、震災で死亡、もしくは行方不明(※1)と認定された人の遺族は、居住していた自治体に申請すれば受け取れる。

だがこの額は、あくまで全国民共通の「1階部分」にすぎない。大半の自営業者の場合、「500万円」が国の定めた〈命の値段〉となる。

勤務中(通勤中なども含まれる)に死亡した民間サラリーマンや一部の自営業者(※2)は、労働者災害補償保険法により遺族特別支給金が300万円支払われる。いわゆる「労災保険」で、これが「2階部分」に相当する。今回の大震災では、労災は申請のほぼ100%が認められた。就学年齢の子供がいる場合に限り、月額1万2000~3万9000円の就学援護費が支給されるが、基本的に500万円+300万円の「800万円」が民間サラリーマンの〈命の値段〉ということになる。

公務員にも「2階部分」が存在する。

まずは地方公務員災害補償法により、300万円の遺族特別支給金が支払われる。これは民間の労災認定と同じ。

だが、それだけではない。対象者には「遺族特別援護金」として、1860万円が加算されるため、「2階部分」は合計2160万円となる。この対象者は「就学児童がいるかなどの条件はない」(地方公務員災害補償基金本部)という。つまり、これに1階部分(500万円)を加えた「2660万円」が公務員の〈命の値段〉なのだ。

同本部に根拠を問うと、

「民間企業では労災とは別に、就労中に死亡した社員の遺族に見舞金や援護金などが支払われる。人事院の調査に基づき、民間に準じる形で1860万円という金額が設定されています」

と説明する。公務員給与の議論で必ず登場する「民間並み」の常套句だが、企業の人事労務に精通する社会保険労務士は首を傾げる。

「1000万円超の弔慰金・見舞金を支払う企業もありますが、それはごく一部の大企業に限られます。平均的には10万~50万円。1860万円という額は、果たして妥当なものでしょうか」

※1/「災害の際にその場にいあわせた者であること」、「生死の証明ができないこと」、「生死不明の状態が3か月間続くこと」の3点すべてに該当する人は、行方不明者として弔慰金の申請が受け付けられる。

※2/本来ならば労災が適用されない自営業者のうち、その業務の実情、災害の発生状況などから、特に労働者に準じて保護することが認められた者には、任意で特別に労災に加入できる「特別加入制度」がある。具体的には、中小企業の事業主(従業員数など条件あり)、建設業・林業などの個人事業主、海外派遣者を指す。

※週刊ポスト2012年2月17日号

関連記事

トピックス

大谷の妻・真美子さん(写真:西村尚己/アフロスポーツ)と水原一平容疑者(時事通信)
《水原一平ショックの影響》大谷翔平 真美子さんのポニーテール観戦で見えた「私も一緒に戦うという覚悟」と夫婦の結束
NEWSポストセブン
大ヒット中の映画『4月になれば彼女は』
『四月になれば彼女は』主演の佐藤健が見せた「座長」としての覚悟 スタッフを感動させた「極寒の海でのサプライズ」
NEWSポストセブン
国が認めた初めての“女ヤクザ”西村まこさん
犬の糞を焼きそばパンに…悪魔の子と呼ばれた少女時代 裏社会史上初の女暴力団員が350万円で売りつけた女性の末路【ヤクザ博士インタビュー】
NEWSポストセブン
華々しい復帰を飾った石原さとみ
【俳優活動再開】石原さとみ 大学生から“肌荒れした母親”まで、映画&連ドラ復帰作で見せた“激しい振り幅”
週刊ポスト
中国「抗日作品」多数出演の井上朋子さん
中国「抗日作品」多数出演の日本人女優・井上朋子さん告白 現地の芸能界は「強烈な縁故社会」女優が事務所社長に露骨な誘いも
NEWSポストセブン
死体損壊容疑で逮捕された平山容疑者(インスタグラムより)
【那須焼損2遺体】「アニキに頼まれただけ」容疑者はサッカー部キャプテンまで務めた「仲間思いで頼まれたらやる男」同級生の意外な共通認識
NEWSポストセブン
学歴詐称疑惑が再燃し、苦境に立つ小池百合子・東京都知事(写真左/時事通信フォト)
小池百合子・東京都知事、学歴詐称問題再燃も馬耳東風 国政復帰を念頭に“小池政治塾”2期生を募集し準備に余念なし
週刊ポスト
(左から)中畑清氏、江本孟紀氏、達川光男氏による名物座談会
【江本孟紀×中畑清×達川光男 順位予想やり直し座談会】「サトテル、変わってないぞ!」「筒香は巨人に欲しかった」言いたい放題の120分
週刊ポスト
大谷翔平
大谷翔平、ハワイの25億円別荘購入に心配の声多数 “お金がらみ”で繰り返される「水原容疑者の悪しき影響」
NEWSポストセブン
【全文公開】中森明菜が活動再開 実兄が告白「病床の父の状況を伝えたい」「独立した今なら話ができるかも」、再会を願う家族の切実な思い
【全文公開】中森明菜が活動再開 実兄が告白「病床の父の状況を伝えたい」「独立した今なら話ができるかも」、再会を願う家族の切実な思い
女性セブン
ホワイトのロングドレスで初めて明治神宮を参拝された(4月、東京・渋谷区。写真/JMPA)
宮内庁インスタグラムがもたらす愛子さまと悠仁さまの“分断” 「いいね」の数が人気投票化、女性天皇を巡る議論に影響も
女性セブン
大谷翔平と妻の真美子さん(時事通信フォト、ドジャースのインスタグラムより)
《真美子さんの献身》大谷翔平が進めていた「水原離れ」 描いていた“新生活”と変化したファッションセンス
NEWSポストセブン