今年の映画賞を総ナメにしている中年俳優がいる。名前は、でんでん。年齢は62才。風貌はどこにでもいそうな庶民的なオッサンだが、その“怪演”に注目が集まっている。
出演した園子温監督の映画『冷たい熱帯魚』で、報知映画賞・最優秀助演男優賞、 キネマ旬報ベスト・テン・助演男優賞、毎日映画コンクール・男優助演賞、ヨコハマ映画祭・助演男優賞、日本アカデミー賞・優秀助演男優賞と、立て続けに受賞。
同映画で彼が演じたのは、次々と人を殺し、笑顔を浮かべながら遺体を解体する殺人鬼の役。映画評論家の松原正美さんはこう語る。
「まさに和製レクター博士。見た目のギャップもあってグイッと引き込まれます。一見すると、どこにでもいそうな普通の中年が、次々と狂気の素顔をさらけ出していく演技は見事というほかない。世の中では事件の主役になる人って案外、普通の人だったりするもの。彼の演技からはそんなことを感じさせますね」
その経歴はユニークだ。渥美清さんに憧れて地元の福岡から上京。中野の丸井に中途入社したものの約4年で退社し、劇団ひまわり入り。こちらは約半年で退団したが、その後、『お笑いスター誕生!!』(日本テレビ系)への出演をきっかけに芸能界入りした。
スタンダップコメディーの芸風で、タレントとして活動。『オレたちひょうきん族』(フジテレビ系)にも出演した。その後、俳優に転向し森田芳光監督の『の・ようなもの』(1981年)で映画デビューした。
主役で出演することはほとんどないが、話題作には必ずといっていいほど、彼の姿がある。映画『パッチギ! LOVE&PEACE』(2007年)、映画『クライマーズ・ハイ』(2008年)、映画『モテキ』(2011年)など、枚挙にいとまがない。最近では、連続ドラマ『運命の人』(TBS系)にも新聞社の販売部長役で出演。公開中の映画『ヒミズ』(園子温監督)では、冷酷な顔も持ちながら情も見せるヤクザの親分を好演した。
「お笑い出身ということで、コメディーもできるし、サスペンスもできる。中年のいわゆる“いい人”を演じる役者は日本にもたくさんいますが、彼のように悪役と両方できる役者はなかなかいない。今後、脇役を演じながらも存在感を増していくのは間違いありません」(前出・松原さん)
ちなみに芸名の由来は、でんでん虫のようにかわいくありたくて付けたそうだが、その姿はいかようにも化けられそう。アラ還俳優の活躍に注目である。
撮影■小彼英一