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乳幼児の食品放射能規制強化 科学的根拠はないと専門家指摘

 先日、厚労省が定めた食品に含まれる放射性セシウムの新しい安全基準に対し、専門家で構成される文科省の審議会が「厳しすぎる」と注文をつけて物議をかもした。短絡的なマスコミや市民団体は、「放射能ゼロが当然」「文科省は国民に毒を食えというのか」と騒ぐが、そうした感情論では正しい結論は出ない。
 
 考えるべきは、「安全な食品」とは何かという点と、規制による農業や生活への悪影響、そして相反する安全と悪影響を比較して最も妥当な線引きを決めることだ。
 
 厳しすぎると指摘された厚労省の基準は、最も多く拡散している放射性セシウム(134、137の合計)で100ベクレル/kg、乳幼児用のミルクなど一部で50ベクレル/kgだ。

 官僚が規制したがるのは、第1に責任追及を恐れるからであり、第2に業界への指導で新たな利権を握れるからだ。今回の規制強化は物品によっては5倍も厳しくなっており、一部の農家は「もう何を作っても売れない」と嘆く。それほど厳しく規制して、ではどれだけ国民は安全になるのか。

 規制の判断材料にされた厚労省部会自身の試算でも、従来基準のままで平均的な食生活をした場合の年間被曝量は0.051ミリシーベルト(※注)。これが新基準になって一部の汚染食品が市場から追い出されると、0.043ミリシーベルトに減るとされる。その差、わずか0.008だ。

 すでに広く知られている通り、国際放射線防護委員会(ICRP)は、自然放射線、医療放射線を除いた被曝量を「年間1ミリシーベルト以下」にすることが望ましいとしている。食品からの被曝量は、そもそもこの許容量の20分の1にすぎず、規制強化で改善されるのは、許容量の1%にも満たない。少なくとも、この規制で「日本の食卓が安全になる」とはとてもいえないし、そもそも現状で日本人が内部被曝の深刻な脅威にさらされているわけでもないことがわかる。

 首都大学東京大学院の福士政広・放射線科学域長が規制に疑問を投げかける。

「厳しすぎることも問題だし、規制対象もおかしい。乳幼児だけ基準を厳しくしているが、食品からの被曝で一番被害を受けるのは、食べる量が多い思春期の男性です。乳幼児の規制強化は親の不安に対応しただけで科学的根拠は何もない。

 しかも、基準を厳しくすれば検査に時間がかかる。流通量が変わらないのだから、その分、検査できるサンプルは減るわけで、むしろそちらのほうが問題だ。

 内部被曝は、福島県での厚労省調査でも年間0.0193ミリシーベルト程度と試算されており、当初心配したような健康に害を及ぼす危険はないのです」

※注 ベクレルとは物質が放射線を出す量、シーベルトは人間が被曝で被害を受ける量を表わす。ベクレルをシーベルトに換算するには、摂取量と放射性物質ごとに設定された実効線量係数という数値を掛ける。

※週刊ポスト2012年3月9日号

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