ライフ

au携帯CM 星飛雄馬を「不自由の象徴」扱いに中年世代が違和感

 au携帯の「あたらしい自由」を伝えるCMシリーズは、合間に、突然「巨人の星」の星飛雄馬の顔がインサートされ、『俺は(スマホを)選べない!子供の頃から野球だけだ!』と涙。この「ありえない設定」は若い世代にウケる一方、高度成長期を体験した中年世代には違和感が広がっているという。その深層を、作家で五感生活研究所の山下柚実氏が解説する。

 * * *
 いよいよ新学期が始まり、新入社員を迎える春、大量のCMを投入する携帯電話会社。激しくシェア争いを展開するソフトバンク、NTTドコモ、KDDI。

 3社のCMを並べて見ると、あることに気付きます。3つに共通する点がある、と。それは、人々の関心を惹きつける「場面設定の意図的な不自然さ」です。

 その代表格は、言わずもがな、ソフトバンクの白戸家。犬の父がぺらぺらしゃべる「あり得ない」設定。その「不自然さ」が徹底しているから、むしろ違和感を感じない。ああそういう架空のお話なのね、とこっちもお芝居を見るようにして楽しんでいます。

 ドコモのCMもしかり。渡辺謙がスマホになってしゃべるという、やはり「あり得ない」話。だから、違和感も残りません。

 ところが。KDDI・au携帯のCMだけは、目にするたびにどこかひっかかり、妙な違和感が残ってしまうのです。私だけでしょうか? 

 auの「あたらしい自由」を伝えるCMシリーズは、井川遥、伊勢谷友介、剛力彩芽が出演し、スマホの選び方などを携帯電話でやりとり。その合間に、突然「巨人の星」の星飛雄馬の顔がインサートされ、『俺は(スマホを)選べない!子供の頃から野球だけだ!』と涙。このCMもやはり「あり得ない」設定です。

 これが若い世代にはウケているとか。「スポ根アニメを、ひっくり返した」斬新な手法、と映るようです。しかし。一方で「巨人の星をナメている」「原作者・梶原一騎が見たら怒るのと違う?」といった声も聞かれる。

 このCMでは星飛雄馬を「不自由の象徴として」描くとauの公式なリリースにありました。それはちょっと違うんじゃない? 私の違和感の出所がはっきりしたような気がしました。

「巨人の星」はご存じのように、単なる「スポ根」ではありません。父・一徹からスパルタ教育を受け、飛雄馬は野球の才能を開花させていく。厳しい練習はたしかに「不自由」かもしれません。しかしその「不自由」は、結果として魔球を投げるという「絶対的な自由」を手に入れる手段だったのです。

 日本の高度成長期、社会と個人が試練を乗り越え成長していく姿を投影した、サクセスストーリー。その星飛雄馬が、はたして「不自由の象徴」でしょうか。

 ひとつのことに本気で打ちこみ、汗水を垂らして必死に努力する。そうした時間を、人は「私は不自由だ」と感じるでしょうか。

「巨人の星」に人生を重ね合わせてきた中年世代には、「ちょっとした思いつき」でおもしろ可笑しく使われる星飛雄馬像に、「違和感」を抱く人もいるのではないでしょうか。

 人々の注目を惹きつけるための「あり得ない」設定。使い方によっては若者の関心を集めても、中高年からは反発される「両刃の剣」になるのです。


関連記事

トピックス

六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)と稲川会の内堀和也会長
六代目山口組が住吉会最高幹部との盃を「突然中止」か…暴力団や警察関係者に緊張が走った竹内照明若頭の不可解な「2度の稲川会電撃訪問」
NEWSポストセブン
浅香光代さんと内縁の夫・世志凡太氏
《訃報》コメディアン・世志凡太さん逝去、音楽プロデューサーとして「フィンガー5」を世に送り出し…直近で明かしていた現在の生活「周囲は“浅香光代さんの夫”と認識しています」
NEWSポストセブン
警視庁赤坂署に入る大津陽一郎容疑者(共同通信)
《赤坂・ライブハウス刺傷で現役自衛官逮捕》「妻子を隠して被害女性と“不倫”」「別れたがトラブルない」“チャリ20キロ爆走男” 大津陽一郎容疑者の呆れた供述とあまりに高い計画性
NEWSポストセブン
無銭飲食を繰り返したとして逮捕された台湾出身のインフルエンサーペイ・チャン(34)(Instagramより)
《支払いの代わりに性的サービスを提案》米・美しすぎる台湾出身の“食い逃げ犯”、高級店で無銭飲食を繰り返す 「美食家インフルエンサー」の“手口”【1か月で5回の逮捕】
NEWSポストセブン
温泉モデルとして混浴温泉を推しているしずかちゃん(左はイメージ/Getty Images)
「自然の一部になれる」温泉モデル・しずかちゃんが“混浴温泉”を残すべく活動を続ける理由「最初はカップルや夫婦で行くことをオススメします」
NEWSポストセブン
宮城県栗原市でクマと戦い生き残った秋田犬「テツ」(左の写真はサンプルです)
《熊と戦った秋田犬の壮絶な闘い》「愛犬が背中からダラダラと流血…」飼い主が語る緊迫の瞬間「扉を開けるとクマが1秒でこちらに飛びかかってきた」
NEWSポストセブン
高市早苗総理の”台湾有事発言”をめぐり、日中関係が冷え込んでいる(時事通信フォト)
【中国人観光客減少への本音】「高市さんはもう少し言い方を考えて」vs.「正直このまま来なくていい」消えた訪日客に浅草の人々が賛否、着物レンタル業者は“売上2〜3割減”見込みも
NEWSポストセブン
全米の注目を集めたドジャース・山本由伸と、愛犬のカルロス(左/時事通信フォト、右/Instagramより)
《ハイブラ好きとのギャップ》山本由伸の母・由美さん思いな素顔…愛犬・カルロスを「シェルターで一緒に購入」 大阪時代は2人で庶民派焼肉へ…「イライラしている姿を見たことがない “純粋”な人柄とは
NEWSポストセブン
真美子さんの帰国予定は(時事通信フォト)
《年末か来春か…大谷翔平の帰国タイミング予測》真美子さんを日本で待つ「大切な存在」、WBCで久々の帰省の可能性も 
NEWSポストセブン
シェントーン寺院を訪問された天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年11月21日、撮影/横田紋子)
《ラオスご訪問で“お似合い”と絶賛の声》「すてきで何回もみちゃう」愛子さま、メンズライクなパンツスーツから一転 “定番色”ピンクの民族衣装をお召しに
NEWSポストセブン
インドネシア人のレインハルト・シナガ受刑者(グレーター・マンチェスター警察HPより)
「2年間で136人の被害者」「犯行中の映像が3TB押収」イギリス史上最悪の“レイプ犯”、 地獄の刑務所生活で暴力に遭い「本国送還」求める【殺人以外で異例の“終身刑”】
NEWSポストセブン
“マエケン”こと前田健太投手(Instagramより)
“関東球団は諦めた”去就が注目される前田健太投手が“心変わり”か…元女子アナ妻との「家族愛」と「活躍の機会」の狭間で
NEWSポストセブン