ライフ

地震発生時「やみくもに脱出すればいいというわけではない」

「揺れを感じたら、まず丈夫な机やテーブルなどの下に身を隠す」(福岡県)、「すばやく火の始末をする」(北海道)、「ガスの元栓を締める」(東京都)。行政のホームページには地震発生時の心得が、こう書かれている。これらを初期行動の“常識”と捉えている読者も多いだろう。しかし、「このマニュアルを鵜呑みにすると危険だ」と警告するのは、防災アドバイザーの山村武彦氏である。

 * * *
 屋外への避難は、危険を感じた時、やみくもに脱出すればいいというわけではない。2008年の岩手・宮城内陸地震(マグニチュード=M7.2)の時のことだ。震源域から数十キロ離れた岩手県一関市では、家屋の倒壊がほとんどなかったのに、1人の死者が出た。

 不審を抱いた私は現地に足を運んだ。そこはクリーニングと米を扱う商店のすぐ前の道路だった。店にいた60代の男性が、突然の揺れにあわてて前の車道に飛び出し、ちょうど走ってきた2トントラックにひかれ、死亡してしまったのである。

 行政の防災マニュアルには、「狭い路地や塀、崖など危険な場所に近づくな」などと書かれてはいるが、車道の危険性についてはほとんど触れられていない。阪神・淡路大震災の時、大阪にいた私はそのまま神戸に向かったが、途中の国道には破損した自動車があちこちに放置されていた。ドライバーに話を聞くと、

「最初はめまいかと思っているうちに、ぐらぐら揺れだした。ブレーキもハンドルも利かなくなった」

 と、青ざめた表情で話していた。この証言から分かるように、地震発生時、車はハンドル操作が利かず暴走する危険がある。避難時はできるだけ車道に近づかない方が安全なのだ。

 車で走行中の対応も補足しておくと、マニュアルには「揺れを感じた時は、道路の左側に寄せて停車する」などと書かれている。それしか方法がない場合はしかたがないが、主要幹線を走行中であれば、できるだけ横道に逸れるのが鉄則だ。そして広場か駐車場を見つけて停車する。近くに管理者がいた場合は、その人の了承をとる。主要幹線に放置される車が増えれば、その分、道路の幅員が狭くなり緊急車両の走行に支障が出てくるのだ。

※SAPIO2012年3月14日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

懸命のリハビリを続けていた長嶋茂雄さん(撮影/太田真三)
長嶋茂雄さんが病に倒れるたびに関係が変わった「長嶋家」の長き闘い 喪主を務めた次女・三奈さんは献身的な看護を続けてきた
週刊ポスト
6月9日、ご成婚記念日を迎えた天皇陛下と雅子さま(JMPA)
【6月9日はご成婚記念日】天皇陛下と雅子さま「32年の変わらぬ愛」公務でもプライベートでも“隣同士”、おふたりの軌跡を振り返る
女性セブン
(インスタグラムより)
「6時間で583人の男性と関係を持つ」企画…直後に入院した海外の20代女性インフルエンサー、莫大な収入と引き換えに不調を抱えながらも新たなチャレンジに意欲
NEWSポストセブン
中国・エリート医師の乱倫行為は世界中のメディアが驚愕した(HPより、右の写真は現在削除済み)
《“度を超えた不倫”で中国共産党除名》同棲、妊娠、中絶…超エリート医師の妻が暴露した乱倫行為「感情がコントロールできず、麻酔をかけた患者を40分放置」
NEWSポストセブン
第75代横綱・大の里(写真/共同通信社)
大の里の強さをレジェンド名横綱たちと比較 恵まれた体格に加えて「北の湖の前進力+貴乃花の下半身」…前例にない“最強横綱”への道
週刊ポスト
地上波ドラマに本格復帰する女優・のん(時事通信フォト)
《『あまちゃん』から12年》TBS、NHK連続出演で“女優・のん”がついに地上波ドラマ本格復帰へ さらに高まる待望論と唯一の懸念 
NEWSポストセブン
『マモ』の愛称で知られる声優・宮野真守。「劇団ひまわり」が6月8日、退団を伝えた(本人SNSより)
《誕生日に発表》俳優・宮野真守が30年以上在籍の「劇団ひまわり」を退団、運営が契約満了伝える
NEWSポストセブン
清原和博氏は長嶋さんの逝去の翌日、都内のビル街にいた
《長嶋茂雄さん逝去》短パン・サンダル姿、ふくらはぎには…清原和博が翌日に見せた「寂しさを湛えた表情」 “肉体改造”などの批判を庇ったミスターからの「激励の言葉」
NEWSポストセブン
貴乃花は“令和の新横綱”大の里をどう見ているのか(撮影/五十嵐美弥)
「まだまだ伸びしろがある」…平成の大横綱・貴乃花が“令和の新横綱”大の里を語る 「簡単に引いてしまう欠点」への見解、綱を張ることの“怖さ”とどう向き合うか
週刊ポスト
インタビュー中にアクシデントが発生した大谷翔平(写真/Getty Images)
《大谷翔平の上半身裸動画騒動》ロッカールームでのインタビューに映り込みリポーター大慌て 徹底して「服を脱がない」ブランディングへの強いこだわり 
女性セブン
映画『八日目の蝉』(2011)にて、新人俳優賞を受賞した渡邉このみさん
《ランドセルに画びょうが…》天才子役と呼ばれた渡邊このみ(18)が苦悩した“現実”と“非現実”の境界線 「サンタさんを信じている年齢なのに」
NEWSポストセブン
アーティスト活動を本格的にスタートした萌名さん
「二度とやらないと思っていた」河北彩伽が語った“引退の真相”と復帰後に見つけた“本当に成し遂げたい夢”
NEWSポストセブン