国内

「合併特例債」活用し豪華新庁舎建設進める主な自治体リスト

 野田佳彦・首相は3年前の街頭演説で、血税をすする役人を“シロアリ”と批判した。この国を食い荒らす害虫は国家公務員だけではない。国家公務員の給与削減法案は成立したが地方公務員234万人の懐には全く手が突っ込まれていない。民主党を支える自治労や日教組がそれを阻むからである。

 そんな厚遇で守られている地方シロアリの豪華な「アリ塚=庁舎」が現在、建設ラッシュを迎えていることをご存じだろうか。

 人口19万6000人の鳥取県鳥取市は、総額74億8000万円をかけて鳥取駅近くに6階建ての新庁舎を建設する(2015年完成予定)。854人の職員が使うことになる新たな庁舎には、地産地消をウリにするレストランが入るほか、ケーブルテレビやコミュニティFMの収録スタジオ設置も検討されている。

 しかし、市民には必ずしも歓迎されていない。待ったをかけたのが、「市庁舎新築移転を問う市民の会」だ。昨年7月に建設の是非を問う住民投票の開催を求め、鳥取市の法定数(有権者の50分の1の3200人)をはるかに超える5万304人の署名を集めた。住民投票は5月に行なわれる予定だ。

 新庁舎建設を急いでいるのは鳥取市だけではない。

 特に目立つ自治体の建設計画を下にまとめた。その豪華な内容を見れば、地方財政はさぞ潤っているのだろうと錯覚する。もちろん実態は、国と同じく財政は火の車だ。

 2009年度の地方自治体全体の税収は約36兆円に対し、歳出は約96兆円で、借入金残高は約200兆円に上る。

 それでも好きなだけ豪華庁舎を建てられるのは、建設費を国費で負担するバラ撒きシステムがあるからだ。下の各自治体の庁舎建設の財源には「合併特例債」が充てられている。

 2005年3月末までに合併した市町村のみに認められる特別な地方債(借金)で、合併から10年間使うことができる(2016年度まで)。件の鳥取市も起債期限が2014年度末に迫るので庁舎の建設を急いでいる。

 特例債で庁舎建設をする場合、職員数に応じて面積と建設単価に上限があった。だが、その制限が昨年4月1日に撤廃されたので、どんなに大きく豪華な庁舎でも建てられるようになった。いかに民主党政権がシロアリに甘いか、ここでもわかる。

 合併特例債の70%は国の地方交付税で賄われる。つまり、自治体の庁舎建設費の大半は市民の税金ではなく、国民全員の税金で穴埋めされるから、各自治体は「しょせんは他人のカネ」と考え、大盤振る舞いの計画を立てることになる。

 同じ特例債でも、東日本大震災の復興債とは扱いが大違いだ。野田首相や財務官僚は「被災地のため」と大宣伝する一方で、これを所得税や法人税などの増税の根拠に利用した。

 その裏で、合併特例債という単なるバラ撒きを配り続ける企みも進行中だ。現在、起債期間を10年から15年間に延長する法案まで国会で審議中であることを知る国民はほとんどいないはずだ。

 一方では「財源がない」といって国民に増税を押し付け、一方では地方の庁舎建設に大盤振る舞いでカネを配っている。

 山梨県甲府市の場合、総事業費90億円のうち、使われる特例債は55億円。その7割の38億5000万円は、国民の税金が投入されることになる。庁舎は豪華である。鳥取市を上回る地上10階、地下1階という大きさ。建物や広場全体は同市の名産である「ブドウ棚」をイメージし、太陽光発電パネルで覆われることになる。

 市が作成した「甲府市では庁舎の建替えを計画しています」というパンフレットにこう記されている。

〈合併特例債とは、合併した市町村が合併後10年間(本市の場合は、平成27年度まで)に限り使用できる大変有利な地方債です〉

 今なら国民の税金で安くできる――。これが地方シロアリの本音なのである。

【「合併特例債」を活用した新庁舎建設を進める主な自治体】
自治体名(人口)/完成予定/総事業費
山梨県甲府市(19.6万人)/2013年/90億円
兵庫県豊岡市(8.5万人)/2013年/57億円
秋田県湯沢市(5.1万人)/2014年/30~32億円
滋賀県長浜市(12.5万人)/2014年/67億円
大分県佐伯市(7.8万人)/2014年/56億円
栃木県下野市(5.9万人)/2015年/51億円
長野県安曇野市(9.9万人)/2015年/79億円
鳥取県鳥取市(19.6万人)/2015年/74億円
熊本県玉名市(6.9万人)/2015年/45億円
宮崎県延岡市(13万人)/2016年/75億円

※週刊ポスト2012年3月23日号

関連記事

トピックス

財務省の「隠された不祥事リスト」を入手(時事通信フォト)
《スクープ公開》財務省「隠された不祥事リスト」入手 過去1年の間にも警察から遺失物を詐取しようとした大阪税関職員、神戸税関の職員はアワビを“密漁”、500万円貸付け受け「利益供与」で処分
週刊ポスト
世界中でセレブら感度の高い人たちに流行中のアスレジャーファッション(左・日本のアスレジャーブランド「RUELLE」のInstagramより、右・Backgrid/アフロ)
《広瀬すずもピッタリスパッツを普段着で…》「カタチが見える服」と賛否両論の“アスレジャー”が日本でも流行の兆し、専門家は「新しいラグジュアリーという捉え方も」と解説
NEWSポストセブン
取締役の辞任を発表したフジ・メディア・ホールディングスとフジテレビ(共同通信社)
《辞任したフジ女性役員に「不適切経費問題」を直撃》社員からは疑問の声が噴出、フジは「ガバナンスの強化を図ってまいります」と回答
NEWSポストセブン
子宮体がんだったことを明かしたタレントの山瀬まみ
《“もう言葉を話すことはない”と医師が宣告》山瀬まみ「子宮体がん」「脳梗塞」からの復帰を支えた俳優・中上雅巳との夫婦同伴姿
NEWSポストセブン
愛子さま(写真/共同通信社)
《12月1日がお誕生日》愛子さま、愛に包まれた24年 お宮参り、運動会、木登り、演奏会、運動会…これまでの歩み 
女性セブン
海外セレブの間では「アスレジャー
というファッションジャンルが流行(画像は日本のアスレジャーブランド、RUELLEのInstagramより)
《ぴったりレギンスで街歩き》外国人旅行者の“アスレジャー”ファッションに注意喚起〈多くの国では日常着として定着しているが、日本はそうではない〉
NEWSポストセブン
虐待があった田川市・松原保育園
《保育士10人が幼児を虐待》「麗奈は家で毎日泣いてた。追い詰められて…」逮捕された女性保育士(25)の夫が訴えた“園の職場環境”「ベテランがみんな辞めて頼れる人がおらんくなった」【福岡県田川市】
NEWSポストセブン
【複雑極まりない事情】元・貴景勝の湊川親方が常盤山部屋を継承へ 「複数の裏方が別の部屋へ移る」のはなぜ? 力士・スタッフに複数のルーツが混在…出羽海一門による裏方囲い込み説も
【複雑極まりない事情】元・貴景勝の湊川親方が常盤山部屋を継承へ 「複数の裏方が別の部屋へ移る」のはなぜ? 力士・スタッフに複数のルーツが混在…出羽海一門による裏方囲い込み説も
NEWSポストセブン
アスレジャースタイルで渋谷を歩く女性に街頭インタビュー(左はGettyImages、右はインタビューに応じた現役女子大生のユウコさん提供)
「同級生に笑われたこともある」現役女子大生(19)が「全身レギンス姿」で大学に通う理由…「海外ではだらしないとされる体型でも隠すことはない」日本に「アスレジャー」は定着するのか【海外で議論も】
NEWSポストセブン
中山美穂さんが亡くなってから1周忌が経とうとしている
《逝去から1年…いまだに叶わない墓参り》中山美穂さんが苦手にしていた意外な仕事「収録後に泣いて落ち込んでいました…」元事務所社長が明かした素顔
NEWSポストセブン
イギリス出身のインフルエンサー、ボニー・ブルー(Instagramより)(Instagramより)
《俺のカラダにサインして!》お騒がせ金髪美女インフルエンサー(26)のバスが若い男性グループから襲撃被害、本人不在でも“警備員追加”の大混乱に
NEWSポストセブン
(左から)中畑清氏、江本孟紀氏、達川光男氏の人気座談会(撮影/山崎力夫)
【江本孟紀・中畑清・達川光男座談会1】阪神・日本シリーズ敗退の原因を分析 「2戦目の先発起用が勝敗を分けた」 中畑氏は絶不調だった大山悠輔に厳しい一言
週刊ポスト