国内

大阪二児遺棄殺人の被告を面接した人物 「真面目さを尊敬」

 大阪市内のマンションで我が子を虐待死させた下村早苗被告(24)は最終意見陳述で、涙を流した。
 
「もう一度2人を抱きしめたい。こんなひどい母親ですが、私はこれからも2人の母親でいます。一生2人を背負って、罪を償って生きていきます」
 
 弁護側は、当時の下村被告が離婚間もなく、特殊な心理状態にあって殺意はなく「保護責任者遺棄致死罪に留まる」と主張した。だが、3月16日に下された判決は懲役30年。下村被告の殺意が全面的に認められた形だ。ネグレクト(育児放棄)として前歴なき量刑を負うことになった下村被告の背後に横たわる「社会の闇」を杉山春氏(ノンフィクションライター)がルポルタージュする。

 * * *
 名古屋でキャバクラ嬢として勤めながらの子育ては大変だったという。子どもたちは次々に熱を出し、医者には「お母さんと離れたくないイヤイヤ病ではないか」と言われた。仕事を休めば収入が下がる。
 
 2009年10月に早苗さんは新型インフルエンザに罹患する。幼い子どもが命を落とすというニュースが流れていた。元夫と実父にそれぞれ子どもを預かって欲しいと助けを求めたが、どちらからも仕事があると断わられた。
 
 同じ頃、第二子の楓ちゃんの1歳の誕生日を祝いたいと元夫を動物園に誘ったが、これも断わられる。しかも、当日は誰からもお祝いのメールや電話がなかった。
 
「私や桜子(長女)や楓のことは、なかったことにしたいのかなと思いました」
 
 それまで子育てを頑張って来た早苗さんが新しく恋人を作るのは、それから約1週間後だ。月末には職場を変わった。借金が返せなくなり、子どもを見てくれた友人とも疎遠になる。早苗さんの中で何かが壊れた。
 
 2010年1月18日、早苗さんは2歳8か月になった桜子ちゃんの手を引き、1歳3か月の楓ちゃんをベビーカーに乗せて、大きな荷物を持って、大阪ミナミの老舗風俗店に面接に行った。桜子ちゃんは笑顔で早苗さんに甘え、楓ちゃんはぷくぷく太っていた。
 
 対応した同店主任のMは「子どもたちのために学資保険に入りたい」と応募動機を語る早苗さんを「まじめな人だと尊敬した」と事件後供述している。
 
 Mは店から徒歩10分ほどのところにある単身者向けマンションを寮として提供し、子どもたちのために託児所を探した。
 
 Mはこの日、早苗さんとセックスをした。待遇を決め、生活全般を管理する彼を早苗さんは拒否できない。それに中学時代に性暴力を体験しており、男性の性的な働きかけを断わりにくい。レイプされる恐怖より、無抵抗を選んでしまう。
 
 そのまま、新人女性として仕事に入った。同店は、全身を重ねあわせて客を愛撫するマットプレーを売り物にしていた。風俗のなかでもハードな職場だ。
 
 深夜12時に仕事が終わり、託児所まで迎えにいった。
 
 桜子ちゃんが泣きながら駆け寄ってくる。泣いている子を放置している職員の働き方が腑に落ちない。二度と子どもたちを預けなかった。
 
 仕事中、レイプされたこともあったようだ。若い女性が次々参入し、風俗嬢同士の競争は厳しい。仕事そのものが激しいストレスだ。
 
 3月に入って、客としてきたホストと恋仲になった。マンションに戻らない時間が長くなる。
 
「家に帰ると、桜子と楓がいるのが嫌だった。桜子と楓が嫌いなのではなくて、(二人の周囲に)誰もいない。その時の状況全てが嫌だった」
 
 早苗さんは桜子ちゃんに自分を重ねていた。桜子ちゃんは、幼い時、母に置いていかれた自分自身だ。自分の姿を直視できない。
 
 弁護士が聞く。

「6月9日に2食分を残して部屋を出ましたね」

「戻らないつもりは全然ありませんでした」

「一般的には、食事と水がないと死んでしまうことはわかりますね」

 泣きながらうなずく。

「それが50日間続きますが、頭に浮かびませんでしたか」

「考えないようにしていました」

「今思うと、どんな感じですか」

「考えが浮かばないわけではないので、上から塗りつぶすような感じでした」

「子どもたちがいなくなって欲しいという考えは?」

「ありません」

 早苗さんの罪とは何か。それは自分に向けられたあらゆる攻撃や暴力、拒否に反撃せず、逃げ続けたことだ。感覚を塗りつぶし、全てを受け入れた。

 今、SOSのサインを出せない母親は、早苗さんだけではない。

※週刊ポスト2012年4月6日号

関連記事

トピックス

二宮和也が『光る君へ』で大河ドラマ初出演へ
《独立後相次ぐオファー》二宮和也が『光る君へ』で大河ドラマ初出演へ 「終盤に出てくる重要な役」か
女性セブン
海外向けビジネスでは契約書とにらめっこの日々だという
フジ元アナ・秋元優里氏、竹林騒動から6年を経て再婚 現在はビジネス推進局で海外担当、お相手は総合商社の幹部クラス
女性セブン
今回のドラマは篠原涼子にとっても正念場だという(時事通信フォト)
【代表作が10年近く出ていない】篠原涼子、新ドラマ『イップス』の現場は和気藹々でも心中は…評価次第では今後のオファーに影響も
週刊ポスト
真剣交際していることがわかった斉藤ちはると姫野和樹(各写真は本人のインスタグラムより)
《匂わせインスタ連続投稿》テレ朝・斎藤ちはるアナ、“姫野和樹となら世間に知られてもいい”の真剣愛「彼のレクサス運転」「お揃いヴィトンのブレスレット」
NEWSポストセブン
交際中のテレ朝斎藤アナとラグビー日本代表姫野選手
《名古屋お泊りデート写真》テレ朝・斎藤ちはるアナが乗り込んだラグビー姫野和樹の愛車助手席「無防備なジャージ姿のお忍び愛」
NEWSポストセブン
破局した大倉忠義と広瀬アリス
《スクープ》広瀬アリスと大倉忠義が破局!2年交際も「仕事が順調すぎて」すれ違い、アリスはすでに引っ越し
女性セブン
大谷の妻・真美子さん(写真:西村尚己/アフロスポーツ)と水原一平容疑者(時事通信)
《水原一平ショックの影響》大谷翔平 真美子さんのポニーテール観戦で見えた「私も一緒に戦うという覚悟」と夫婦の結束
NEWSポストセブン
中国「抗日作品」多数出演の井上朋子さん
中国「抗日作品」多数出演の日本人女優・井上朋子さん告白 現地の芸能界は「強烈な縁故社会」女優が事務所社長に露骨な誘いも
NEWSポストセブン
【全文公開】中森明菜が活動再開 実兄が告白「病床の父の状況を伝えたい」「独立した今なら話ができるかも」、再会を願う家族の切実な思い
【全文公開】中森明菜が活動再開 実兄が告白「病床の父の状況を伝えたい」「独立した今なら話ができるかも」、再会を願う家族の切実な思い
女性セブン
大谷翔平と妻の真美子さん(時事通信フォト、ドジャースのインスタグラムより)
《真美子さんの献身》大谷翔平が進めていた「水原離れ」 描いていた“新生活”と変化したファッションセンス
NEWSポストセブン
国が認めた初めての“女ヤクザ”西村まこさん
犬の糞を焼きそばパンに…悪魔の子と呼ばれた少女時代 裏社会史上初の女暴力団員が350万円で売りつけた女性の末路【ヤクザ博士インタビュー】
NEWSポストセブン
韓国2泊3日プチ整形&エステ旅をレポート
【韓国2泊3日プチ整形&エステ旅】54才主婦が体験「たるみ、しわ、ほうれい線」肌トラブルは解消されたのか
女性セブン