国際情報

アフガンの訓練隊長は身長190cm、日本人米空軍少佐だった

 今年に入り、アフガニスタンでは米軍兵士による民間人への銃乱射など事件・不祥事が続発している。現地情勢が混迷を深める中、アフガンの秩序回復のために尽力する“日本人米兵”がいた。異色の経歴を持つ米空軍少佐の奮闘をフォトジャーナリスト・横田徹氏がレポートする。

 * * *
 アフガニスタン東部、ホースト州にある警察訓練センター。朝から警察官志望の若者たちが訓練を受けていた。

 積み上げたコンテナで仮想の市街地が作られ、建物に立て籠るテロリストを逮捕するというシナリオで訓練は進む。アフガニスタン人教官がライフルの扱い方、移動方法などを細かくチェックする。

 訓練を見守るのはNTM-A(NATO-Training Mission-Afghanistan)に所属する米軍兵士とヨルダン国家警察の警察官だ。私が訓練センターを取材した1月、そのNTM-Aのチームに1人の「東洋人」の姿があった。190cmの身長は、大柄な米軍兵士に混じっても人目を引く。

 訓練隊長を務める米空軍の内山進・少佐である。

「こうした施設があるのはホースト警察訓練センターだけです。部下たちが工夫して作ったもので、訓練生は卒業後、国境警察に配属されます」

 アフガニスタンの中でもパキスタン国境地帯は特に治安が悪いが、訓練生の士気は高い。かつてSRT(Special Reaction Team=憲兵の特殊部隊)の隊長だった内山少佐は、8週間の厳しい訓練を経て卒業間近の訓練生たちを満足気に見つめていた。

 質問には、日本語で淀みなく答える。一体どのような経歴の持ち主なのか。

「日本で警察官に育てられた私が米軍の憲兵になり、アフガンの警官を指導しているのですから、不思議ですよね」

 そう語る内山少佐は1963年に東京都中野区で生まれた。幼少時、父親が仕事を頻繁に変え、両親は夫婦喧嘩が絶えなかったという。心配した母の姉夫妻がまだ2歳だった内山氏を預かった。伯父は地元交番勤務の巡査部長、伯母は補導員だった。叱る時は柔道の寝技を使う伯父は、弱い者を守る“正義の味方”で、内山少年にとって警察官は憧れの職業だったという。

「正義を貫く勇気を持て」

 伯父の言葉は内山少年の心に強く残った。

 小学1年生で内山少年は親元に戻り、家族と共に広島に移り住んだ。その後、大学2年生の時に交換奨学留学生として渡米。ミズーリ州立大で化学の学士号を取得後、イリノイ大学大学院に進学した。

 米軍に入ったきっかけはほんの小さな偶然だった。1990年、イラク軍がクウェートに侵攻。その翌年、内山氏はシカゴの空港にいた。クウェートを占領したイラク軍兵士が喜ぶニュース映像を放送していたロビーのテレビを見る内山氏に、1人の軍人が近づいてきた。

「君はいい体格してるね。陸軍に入らないか? 今、兵隊が足りないんだよ」

 陸軍のリクルーターだった。

「軍に入ればアメリカ永住権が取得出来る」。

 翌日には陸軍の入隊募集所に向かっていた。新兵訓練所、士官学校を卒業し1999年まで憲兵隊の将校を務める。その後一時、民間企業に務めるが2002年に今度は米空軍に入隊。米国内のミサイル基地警備を担当する憲兵となる。

 在日米軍横田基地への転属で故郷の土も踏んだが、一方で2006年と2008年には情勢が悪化していたイラクのバグダッドに派兵される。主な任務は基地の警備強化で、毎日が命懸けの任務だった。この間にグリーンカード(永住権)を得て、その後に米国籍を取得した。そして2011年、アフガニスタンにやってきた。

※SAPIO2012年4月25日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

愛子さま(写真/共同通信社)
《中国とASEAN諸国との関係に楔を打つ第一歩》愛子さま、初の海外公務「ラオス訪問」に秘められていた外交戦略
週刊ポスト
「アスレジャー」の服装でディズニーワールドを訪れた女性が物議に(時事通信フォト、TikTokより)
《米・ディズニーではトラブルに》公共の場で“タイトなレギンス”を普段使いする女性に賛否…“なぜ局部の形が丸見えな服を着るのか” 米セレブを中心にトレンド化する「アスレジャー」とは
NEWSポストセブン
「高市答弁」に関する大新聞の報じ方に疑問の声が噴出(時事通信フォト)
《消された「認定なら武力行使も」の文字》朝日新聞が高市首相答弁報道を“しれっと修正”疑惑 日中問題の火種になっても訂正記事を出さない姿勢に疑問噴出
週刊ポスト
地元コーヒーイベントで伊東市前市長・田久保真紀氏は何をしていたのか(時事通信フォト)
《シークレットゲストとして登場》伊東市前市長・田久保真紀氏、市長選出馬表明直後に地元コーヒーイベントで「田久保まきオリジナルブレンド」を“手売り”の思惑
週刊ポスト
ラオスへの公式訪問を終えた愛子さま(2025年11月、ラオス。撮影/横田紋子)
《愛子さまがラオスを訪問》熱心なご準備の成果が発揮された、国家主席への“とっさの回答” 自然体で飾らぬ姿は現地の人々の感動を呼んだ 
女性セブン
26日午後、香港の高層集合住宅で火災が発生した(時事通信フォト)
《日本のタワマンは大丈夫か?》香港・高層マンション大規模火災で80人超が死亡、住民からあがっていた「タバコの不始末」懸念する声【日本での発生リスクを専門家が解説】
NEWSポストセブン
東京デフリンピックの水泳競技を観戦された天皇皇后両陛下と長女・愛子さま(2025年11月25日、撮影/JMPA)
《手話で応援も》天皇ご一家の観戦コーデ 雅子さまはワインレッド、愛子さまはペールピンク 定番カラーでも統一感がある理由
NEWSポストセブン
山上徹也被告(共同通信社)
「金の無心をする時にのみ連絡」「断ると腕にしがみついて…」山上徹也被告の妹が証言した“母へのリアルな感情”と“家庭への絶望”【安倍元首相銃撃事件・公判】
NEWSポストセブン
被害者の女性と”関係のもつれ”があったのか...
《赤坂ライブハウス殺人未遂》「長男としてのプレッシャーもあったのかも」陸上自衛官・大津陽一郎容疑者の “恵まれた生育環境”、不倫が信じられない「家族仲のよさ」
NEWSポストセブン
11月24日0時半ごろ、東京都足立区梅島の国道でひき逃げ事故が発生した(読者提供)
《足立暴走男の母親が涙の謝罪》「医師から運転を止められていた」母が語った“事件の背景\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\"とは
NEWSポストセブン
大谷翔平が次のWBC出場へ 真美子さんの帰国は実現するのか(左・時事通信フォト)
《大谷翔平選手交えたLINEグループでやりとりも》真美子さん、産後対面できていないラガーマン兄は九州に…日本帰国のタイミングは
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! 習近平をつけ上がらせた「12人の媚中政治家」ほか
「週刊ポスト」本日発売! 習近平をつけ上がらせた「12人の媚中政治家」ほか
NEWSポストセブン