国内

大人気の「維新政治塾」 大衆迎合で根本的改革難しいとの指摘

 30年以上にわたり日本政治、日本と国際社会の関係を取材し続けてきたオランダ人ジャーナリストのカレル・ヴァン・ウォルフレン氏(アムステルダム大学名誉教授)は、日本には哲学や理念が感じられない「偽りのポピュリズム(False Populism)」が広がりやすいと指摘する。

 その典型が細川護煕元首相や小泉純一郎元首相が行なった「改革」だというのだ。以下、ウォルフレン氏が二人の改革と、現代の「ポピュリズム」の表れだという橋下徹大阪市長について分析する。

 * * *
 結局、彼らの改革とは、有権者の間に溜まった不満の「ガス抜き」程度に過ぎなかった。政治や社会の在り方を変えるような「根本的な改革」ではなかったわけだ。

 大阪で府知事、市長として政治家のキャリアを重ねる橋下は、自らが率いる「大阪維新の会」での国政進出を目指している。しかし、細川や小泉と同様、私はこのままでは橋下にも「根本的な改革」は難しく、「偽りのポピュリズム」になってしまうと見ている。

 その理由のひとつが、彼が設立した「維新政治塾」である。同塾には3000人を超える応募があったと聞く。しかし、政治家とは“ジュク”で養成できるような存在でない。モデルとなったとされる松下政経塾にしろ、国会議員だけは数多く輩出しているが、いずれもろくなものではない。

 維新政治塾では、橋下ブレーンを務める「脱藩官僚」たちが、講師として塾生を教育するようだ。だが、政治家は官僚によって育てられるようなものではない。例えば、講師の1人に、単に米共和党の特定グループの利益を代弁しているに過ぎない元外務官僚の名前が挙がっている。彼らが講師を務める維新政治塾に何が期待できるというのか。

 そもそも、官僚と政治家は全く性質が異なる存在だ。官僚には、自ら動いて問題を見つけようとする発想がない。彼らの仕事は、すでに判明している問題を解決することだからだ。自分たちの無知すら認めようとはしない。一方、有能な政治家には、物事を突き詰めて考え、本質的な問題を発見する力が必要である。

 その意味で、現首相の野田佳彦には全く幻滅している。財務省の言いなりとなって消費税増税に突き進む姿は、政治家のあるべき姿とはかけ離れている。

 確かに、日本が抱える膨大な財政赤字は放置すべきではない。とはいえ、今が消費税を上げる時期とは思えない。増税なしには「日本が第二のギリシャになる」との意見もあるが、それこそ財務省官僚による脅し文句だ。日本とギリシャの状況は全く違う。デフレ下の日本で消費税を上げれば、逆に税収が落ち込むのは目に見えている。

 政治家に官僚と対立すべきだと言っているのでない。官僚をうまく使いこなしてこその政治家なのだ。

■聞き手・構成/出井康博(ジャーナリスト)

※SAPIO2012年5月9・16日号

関連記事

トピックス

今季から選手活動を休止することを発表したカーリング女子の本橋麻里(Xより)
《日本が変わってきてますね》ロコ・ソラーレ本橋麻里氏がSNSで参院選投票を促す理由 講演する機会が増えて…支持政党を「推し」と呼ぶ若者にも見解
NEWSポストセブン
白石隆浩死刑囚
《女性を家に連れ込むのが得意》座間9人殺害・白石死刑囚が明かしていた「金を奪って強引な性行為をしてから殺害」のスリル…あまりにも身勝手な主張【死刑執行】
NEWSポストセブン
失言後に記者会見を開いた自民党の鶴保庸介氏(時事通信フォト)
「運のいいことに…」「卒業証書チラ見せ」…失言や騒動で謝罪した政治家たちの実例に学ぶ“やっちゃいけない謝り方”
NEWSポストセブン
球種構成に明らかな変化が(時事通信フォト)
大谷翔平の前半戦の投球「直球が6割超」で見えた“最強の進化”、しかしメジャーでは“フォーシームが決め球”の選手はおらず、組み立てを試行錯誤している段階か
週刊ポスト
参議院選挙に向けてある動きが起こっている(時事通信フォト)
《“参政党ブーム”で割れる歌舞伎町》「俺は彼らに賭けますよ」(ホスト)vs.「トー横の希望と参政党は真逆の存在」(トー横キッズ)取材で見えた若者のリアルな政治意識とは
NEWSポストセブン
ベビーシッターに加えてチャイルドマインダーの資格も取得(横澤夏子公式インスタグラムより)
芸人・横澤夏子の「婚活」で学んだ“ママの人間関係構築術”「スーパー&パークを話のタネに」「LINE IDは減るもんじゃない」
NEWSポストセブン
LINEヤフー現役社員の木村絵里子さん
LINEヤフー現役社員がグラビア挑戦で美しいカラダを披露「上司や同僚も応援してくれています」
NEWSポストセブン
モンゴル滞在を終えて帰国された雅子さま(撮影/JMPA)
雅子さま、戦後80年の“かつてないほどの公務の連続”で体調は極限に近い状態か 夏の3度の静養に愛子さまが同行、スケジュールは美智子さまへの配慮も 
女性セブン
場所前には苦悩も明かしていた新横綱・大の里
新横綱・大の里、場所前に明かしていた苦悩と覚悟 苦手の名古屋場所は「唯一無二の横綱」への起点場所となるか
週刊ポスト
医療的ケア児の娘を殺害した母親の公判が行われた(左はイメージ/Getty、右は福岡地裁)
24時間介護が必要な「医療的ケア児の娘」を殺害…無理心中を計った母親の“心の線”を切った「夫の何気ない言葉」【判決・執行猶予付き懲役3年】
NEWSポストセブン
近況について語った渡邊渚さん(撮影/西條彰仁)
渡邊渚さんが綴る自身の「健康状態」の変化 PTSD発症から2年が経ち「生きることを選択できるようになってきた」
NEWSポストセブン
昨年12月23日、福島県喜多方市の山間部にある民家にクマが出現した(写真はイメージです)
《またもクレーム殺到》「クマを殺すな」「クマがいる土地に人間が住んでるんだ!」ヒグマ駆除後に北海道の役場に電話相次ぐ…猟友会は「ヒグマの肉食化が進んでいる」と警鐘
NEWSポストセブン