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胃瘻は一種の拷問 人間かと思うような悲惨な姿になると医師

「大往生したければ医療と深く関わるな」「がんで死ぬのがもっともよい」。そんな主張をする医師が京都にいる。京都の社会福祉法人老人ホーム「同和園」の常勤医を務める中村仁一氏だ。これまで数百例の自然死のお年寄りを見送ってきた中村氏から、老人医療の問題点、これからの日本人か持つべき死生観について聞いた。(聞き書き=ノンフィクション・ライター神田憲行)

 * * *
 いま日本中が全く死ぬことを忘れていますね。90歳代の親の子供たちが70歳前後で、自分たちがいつ死んでも不思議でない年齢に達しているくせに、親の死を考えていないんです。

 背景にあるのは、発達したといわれる近代医学への篤い信仰です。でも治る可能性のある病気は感染症だけですよ。生活習慣病は調整することはできても、完治することはあり得ません。

 「早期発見」「早期治療」といいますが、あれは完治の可能性がある感染症の結核で成功した手法なんですよ。

 もし生活習慣病に対していうなら、「早期発見」「早期管理」か「早期発見」「長期治療」というべきでしょうね。早く見つければ完治するんだよ、という誤解を与えますね。もっとも、器のヒビと考えれば、早く見つけてヒビを広げないようにすることはたしかに意味のあることではあります。しかし、自覚症状がないうえに、長年の生活習慣など、そう簡単に変えられるものではありませんから、目的は達せられないでしょう。

 胃瘻(いろう)という医療技術があります。口からものが入らなくなった患者に対し、おなかに穴を開けて胃にチューブを差し込み、養分や水分を送り込むものです。これはもともと、食道が狭くなっている子供用に開発されたものです。

 ところが今、これを口からものが入らなくなった年寄りにまで転用してしまったんです。以前は全身麻酔をかけて外科的に胃瘻を作っていたので患者は限られていたのです。

 けれども局部麻酔で胃カメラを使って10分か15で簡単に作れるようになったため、大きく普及してしまいました。胃瘻を作って年月を重ねると、寝たきりで意識の疎通もなく、手足の関節も固まり、これが人間かと思うような悲惨な姿に変わり、死んだ後、手足の骨をポキポキ折らないと棺桶に入らなくなるんですね。死んでいるから痛くないというものの、そんな状態になるまでムリヤリ生かすことにどれほどの意味があるのでしょうか。

 胃瘻を作ることも本人の意思ではなく、家族の意向です。家族の“エゴ”です。もっとも、親と子が「死を視野」に入れてきちんとかかわってこなかったつけですから仕方ないともいえますけれど。

 現在のところ、一度始めた胃瘻は、日本では中止できないんですね。止めるとすぐ殺人と騒がれますから。アメリカでは裁判所が中止を決めてくれますから可能なんですが、日本ではいくら中止を要請してもダメです。

 フランスでは「自分の口で食べられなくなったら医者の仕事は終わり、後は牧師の仕事」といわれているそうです。日本から北欧へ研修に行っていた介護関係者が、食べようとしない年寄りの口にスプーンでムリに押し込んで、こっぴどく叱られたというエピソードがあります。「あなたは本人の意思を無視するのか」と。これは文化の違いですから一概にどちらがいいとはいえませんが。私は、この北欧型が好きですね。

 食べやすい形に調理を工夫してもらうことは頼まなくてはなりませんが、ムリヤリ、口の中に押し込むのは願い下げです。口をつけなかったら黙って下げる。私は妻にはそう伝えています。

 身体が要らないといっているのに、ムリヤリ押し込むのはかなりの苦痛と負担を強いているはずです。

 私は、これは一種の“拷問”と考えています。「死にゆく自然の経過は邪魔しない」「死にゆく人間に無用な苦痛を与えてはならない」。これは守るべき鉄則だと思います。

【中村仁一氏プロフィール】
1940年、長野県生まれ。京都にある社会福祉法人老人ホーム「同和園」付属診療所所長、医師。京大医学部卒。財団法人高雄病院院長、理事長を経て、2000年2月より現職。著書に「大往生したけりゃ医療とかかわるな」(幻冬舎新書)などがある。

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