カウンターの端でもう30分は飲んでいる50代は、連れを待ちながら焼酎ハイボールの味見をしたのだという。
「この店の最近のメニューなんで飲んでみたんだけど、うれしい肩透かしだったね。この手は甘いもんなんだと勝手に決めつけてた。20代の頃に飲んだ酎ハイを思い出させる味で甘くないんだ。団塊の世代よりは若いけど、三丁目の夕日だよ、これは懐かしい味だわ」
だいたいひとりで来るという40代は、つまみ絶賛派。「おからの大ファンでね。まず、これで飲む。あとは、やっこ、もつ煮、そして、じゃがカレー(じゃが芋ゴロゴロ辛口カレー)。レストランじゃ、この味出せませんよ」
夜も深まり、何組かの客も入れ替わるうちに、吾朗さんから「もうやめときなよ。今日はちょっと飲みすぎだよ」の、声が飛ぶ。手作りつまみの味とはまた違った、これが吾朗さんのもうひとつの味だ。
「おれと話しをしたい人とはもちろん会話するし、ひとりで黙って飲みたそうだなって人は放っておくようにしてますよ。でも、どう見ても飲みすぎだって客には、もうやめなって言うね。酔ってほかのお客さんに迷惑をかけるやつには、出入り禁止を宣告するし」(吾朗さん)
これまでに、けっこう出禁宣告された客はいるらしいが、息子に連れられて謝りにきたり、しばらく間をおいて現れ照れながら飲んだりという形で復活をとげるケースが珍しくないのだという。これこそが秘密基地・三兵の魅力の証明なのだろう。この店の味を知っている男は、やっぱりここで飲みたいのだ。
「夕方6時を過ぎたら、おれも飲むよ。飲みすぎのお客さんに注意するけど、おれは店を閉めたのを覚えていないときもあるほどガンガン飲むね(笑い)」(吾朗さん)
常連客は、これが三兵酒店の隠し味だということを知っている。