国際情報

EUを危機に陥れたギリシャ 言語道断の詐欺行為と落合信彦氏

 ギリシャがEUとユーロそのものを危機に陥れている。EU各国は財政危機が深刻なこの国の救済に必死だが、当のギリシャ国内ではその救済プランとセットになる緊縮財政策への反発が強い。いったいこの国の本質とは何なのか。落合信彦氏が解説する。

 * * *
 ヨーロッパで、世紀をまたいだ「巨大な実験」が失敗する可能性がでてきた。ギリシャの深刻な財政危機によって、統一通貨であるユーロや、EUの存在そのものが危機に晒されているのだ。

 最初に簡単に危機の概要を説明しておこう。

 財政危機に陥ったギリシャが無秩序なデフォルト(債務不履行)をすることになれば、その国債を山のように保有するドイツやフランスの金融機関は巨額の損失を被ることになる。だからこそ、EU各国は救済に必死なわけだが、当のギリシャ国内ではその救済プランとセットになる緊縮財政策への反発が強い。

 ギリシャ政治は大混乱に陥っており、5月の総選挙では救済プランを受け入れようとする与党が敗北したものの、その後の連立協議が不調に終わり、6月17日に再選挙が行なわれる。その再選挙の結果を、世界が固唾を呑んで見守っているというわけだ。

 さて、こうした経緯の中で日本の報道では、ギリシャの好き勝手な振る舞いに、EUが、そして世界が振り回されているという印象ばかり与えられる。

 だが、それは物事の一側面に過ぎない。今回は、現在起きている事態の「本当の原因」について探っていきたい。

 確かに、ギリシャという国がとんでもない腐りきった国家であるという指摘は、事実ではある。1974年に軍事独裁政権が崩壊して以降、政治家はポピュリズムに走り、身の丈を超える公務員の厚遇や財政支出を繰り返した。さらに、“脱税文化”が蔓延(はびこ)っていて、地下経済の規模はGDPの30%以上とも言われている。

 私は、危機が表面化する直前の2009年秋に取材でギリシャを訪れたが、アテネの高級住宅地の上空を数機のヘリコプターが飛んでいた。現地の事情通に、「何のために飛んでいるのか?」と尋ねると、「空から“プール付きの豪邸”の写真を撮って、それを証拠に課税をしようとしているんだ」と説明してくれた。

 通常の徴税システムが全く機能していないことを示している。

 当時から私は警告を発してきたが、ギリシャのような“劣等生”はEUの一員にすべきではなかった。その後に明らかになったように、ギリシャはユーロ導入のためにEUが課している条件(年間の財政赤字はGDPの3%以内)に近づいているかのように見せる“偽飾決算”を繰り返していた。
 
 実際は、基準を遥かに超えるGDPの13%以上の財政赤字を毎年計上していた。にもかかわらず、アメリカの投資銀行ゴールドマン・サックスの助けを借りて偽装決算をEUに提出し、ユーロ圏参加をパスした。もちろんゴールドマン・サックスには相当な謝礼が入ったとされている。

 それ以後、フランスやドイツの金融機関に多額の国債を買わせていたのだから、言語道断の詐欺行為である。ただし、繰り返すが、これは今起きている事態の一つの側面でしかない。

※SAPIO2012年6月27日号

関連キーワード

トピックス

2013年に結婚した北島康介と音楽ユニット「girl next door」の千紗
《不倫報道で沈黙続ける北島康介》元ボーカル妻が過ごす「いつも通りの日常」SNSで垣間見えた“現在の夫婦関係”
NEWSポストセブン
秋篠宮家の長男・悠仁さまの成年式が行われた(2025年9月6日、写真/宮内庁提供)
《凜々しきお姿》成年式に臨まれた悠仁さま 筑波大では「やどかり祭」でご友人とベビーカステラを販売、自転車で構内を移動する充実したキャンパスライフ
NEWSポストセブン
中途採用応募者が急に増えて担当者は困惑(写真提供/イメージマート)
《SNSの偽情報で実害》中途採用に「条件満たさない」応募者が激増した企業、勝手にFラン認定された大学は「少子化の中、学生に来てもらう努力を踏み躙られた」
NEWSポストセブン
趣里(左)の結婚発表に沈黙を貫く水谷豊(右=Getty Images)
趣里の結婚発表に沈黙を貫く水谷豊、父と娘の“絶妙な距離感” 周囲が気を揉む水谷監督映画での「初共演」への影響
週刊ポスト
日本復帰2戦目で初勝利を挙げたDeNAの藤浪晋太郎(時事通信フォト)
横浜DeNA・藤浪晋太郎を大事な局面で起用する三浦大輔監督のしたたかな戦略 相手ファンからブーイングを受ける“ヒール”がCSの行方を左右する
週刊ポスト
宮路拓馬・外務副大臣に“高額支出”の謎(時事通信フォト)
【スクープ】“石破首相の側近”宮路拓馬・外務副大臣が3年間で「地球24週分のガソリン代」を政治資金から支出 事務所は「政治活動にかかる経費」と主張
週刊ポスト
15人の大家族「うるしやま家」(公式HPより)
《ビッグダディと何が違う?》フジが深夜23時に“大家族モノ”を異例の6週連続放送 今、15人大家族「うるしやま家」が人気の背景 
NEWSポストセブン
自身のYouTubeで新居のルームツアー動画を公開した板野友美(YouTubeより)
《超高級バッグ90個ズラリ!》板野友美「家賃110万円マンション」「エルメス、シャネル」超絶な財力の源泉となった“経営するブランドのパワー” 専門家は「20~30代の支持」と指摘
NEWSポストセブン
高校ゴルフ界の名門・沖学園(福岡県博多区)の男子寮で起きた寮長による寮生らへの暴力行為が明らかになった(左上・HPより)
《お前ら今日中に殺すからな》ゴルフの名門・沖学園「解雇寮長の暴力事案」被害生徒の保護者らが告発、写真に残された“蹴り、殴打、首絞め”の傷跡と「仕置き部屋」の存在
NEWSポストセブン
濱田よしえ被告の凶行が明らかに(右は本人が2008年ごろ開設したHPより、現在削除済み、画像は一部編集部で加工しております)
「未成年の愛人を正常に戻すため、神のシステムを破壊する」占い師・濱田淑恵被告(63)が信者3人とともに入水自殺を決行した経緯【共謀した女性信者の公判で判明】
NEWSポストセブン
指定暴力団山口組総本部(時事通信フォト)
《外道の行い》六代目山口組が「特殊詐欺や闇バイト関与禁止」の厳守事項を通知した裏事情 ルールよりシノギを優先する現実“若いヤクザは仁義より金、任侠道は通じない”
NEWSポストセブン
志村けんさんが語っていた旅館への想い
《5年間空き家だった志村けんさんの豪邸が更地に》大手不動産会社に売却された土地の今後…実兄は「遺品は愛用していた帽子を持って帰っただけ」
NEWSポストセブン